◎02年7月



[あらすじ]

 10世紀後半の平安朝時代。 検非違使庁の看督長(かどのおさ)の藤原資麻呂は太い眉といかめしい頬髭で髭麻呂の通称を持つが、実はめっぽう気が弱い。 従者の雀丸は、昔野犬に喰われそうになっていたところを髭麻呂に拾われた。 近年、京では蹴速丸と呼ばれる盗賊が巷を騒がせている。 そんな折、樋口小路の豪奢な屋敷で女が殺された。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 
「お鳥見女房」「あくじゃれ瓢六」に続く作者お得意の時代ミステリー短編集。 前2作に劣らず人情味豊かで適度なユーモアと謎をまぶした好編。 ただ2作と異なりかなり時代がさかのぼっており、主人公が役人ということから、最初の2、3編までは時代背景、宮中の様子、官位等々見慣れぬ言葉が多く、少々とまどわされた。 また相変わらず脇役陣も多彩だが、対する"巨悪"の描き方が物足りなく前2作よりマイナスになった。



[あらすじ]

 コカインと銃の密売に絡んで3人のヤクザが射殺される。 いずれの現場にも"ノスリのだんな"が。 倉木美希は警察庁の特別監察官。 上司から、警視庁公安部に在籍する洲走かりほという女性警部に乱れた異性関係の噂があるということで事情聴取を要請される。 一方、調査事務所を開いている大杉のもとに夫の浮気に絡んで洲走かりほの素行調査の依頼が。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 
「よみがえる百舌」に続く百舌シリーズの最新作。 初期の頃の冷たさはないが、500ページ以上の長さをまったく感じさせない娯楽作。 警察組織の闇という使い古された設定で、展開もあまり意外性が無く、話はスケールが小振りで、よく言えばコンパクト。 しかし洲走かりほという強烈なキャラクタを登場させ、適度な緊張感を保って最後まで話に引き込んでいく。 主人公の2人(美希、大杉)が年のせいか切れが鈍ってきたのが寂しいです。



[あらすじ]

 時は元禄、徳川四代将軍綱吉公により生類憐愍令が施行されていた。 当年17才の修三郎のいる御房家はわずか100石の武家。 何の夢も持てず平々凡々な毎日にいらだっていた彼は、政道の非道を正すという名目で夜間の犬斬りを始める。 やがて気の進まぬ縁談を親に持ちかけられ彼は家を出る。 そして彼は犬斬りの途中、自在に火を操る少女きちに出会う。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 時代小説版
「俺たちに明日はない」を目指したという作品。 映画に比べるとお気楽ムードが強いが、前半、世の中すべてにいらつく修三郎の姿、三人吉三の誕生、彼らが江戸中を騒がせるあたりは快調。 歌舞伎を思わせる台詞回しもいい。 その後は流れが単調で、終盤の大事件との関連も意外性なし。 後半はホームドラマめいてしまったのも人情ものとして読めばそれなりだが、若者の暴走の顛末にしてはまとめすぎでちょっと不満。



[あらすじ]

 ミユキマートは小さな町の小さなコンビニ。 主人の幹郎は、息子を事故で失った後、妻と一緒に店を始めたが、開店2か月後に妻も交通事故で死んだ。 店の経営にももう一つ身が入らず、従業員の治子にいつも叱咤されている。 そんな治子に店の常連の八坂が惚れた。 八坂はヤクザだが一本筋の通った男。 治子はまずヤクザをやめて出直すよう言い放つ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 コンビニに集う客や従業員を描く7話から成る連作集。 ほのぼのとした良い話でハッピーエンドにというより、どれもきれい事で終わらない、しっかり毒のあるところが良く、生きた人間模様が描けている。 特に第5話「あわせ鏡」と治子と一途な八坂の恋の顛末を描いた第1、2話が特にいい。 語り手それぞれの人生を短い物語の中でしっかり見せてくれる。 ただ終盤の6、7話は話を作っている感じが強くて、内容も好みでない。



[あらすじ]

 花菱清太郎はかつては大衆演劇の劇団を率いていたが、今は一家総出で「レンタル家族」業に従事している。 これは家族や子供がいない人のために家族の代わりをする仕事だ。 今日は一人暮らしのおばあさんのところで、清太郎がその人の昔死んでしまった息子の役。 さらにその人に奥さんや子供がいたらという設定で家族全員で演技をする。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 
「誘拐ラプソディー」でほんわかしたユーモアを感じさせた作者の、その面でさらに磨きのかかった作品。 前半のレンタル家族についてのいくつかのエピソードも可笑しいが、借金取りに追われ15年前に飛び出した旅回り一座へ戻ってからは、劇団の描写も興味深く、たいへん面白い。 泥臭く派手な大衆演劇の世界が実に生き生きと描かれている。 物語も登場人物もややデフォルメされ、大衆演劇そのままの話になっている。


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▲ 「俺たちに明日はない」

 1967年製作のアメリカンニューシネマの原点と呼ばれる犯罪映画。 1930年代、大不況のアメリカ。 クライド(ウォーレン・ビーティ)とボニー(フェイ・ダナウェー)はコンビを組んで盗みを働いていたが、やがて仲間が増え、ドジを踏むようになり、殺人も犯し追いつめられていく。 ラスト、2人が警官隊の銃撃の嵐を受ける場面は非常に有名。 若者の焦り、気負い、孤独、倦怠感など今までの映画にはない描き方で、いろいろな意味で衝撃的な作品でした。