[寸評]
昨年「川は静かに流れ」が印象に残った作者の会心作。
先の読めない意外な展開の連続で、テンポ良く物語は進み、長さを感じさせない娯楽作であると同時に、家族の崩壊と再生の物語として胸に迫るものがある。
担当刑事がジョニーの母に寄せる一途な想いも、作りものでない純粋さが窺える。
少年の活躍が過度な点だけが減点。
愛情、友情、憎しみ、正義等々、様々な感情が詰め込まれたドラマチックな一級品。
[寸評]
本屋大賞受賞作。
過去の選考ではやや偏ったところも感じたが、今回の大賞は納得。
人間生活の基本となる”暦”を改めるという、壮大かつ畏れ多い大事業に挑む男と、彼を囲む者たちの感動のドラマ。
当然その道は平坦でなく、はるかに長い期間、艱難辛苦の連続だが、常に前を向き努力を怠らない主人公の姿勢には驚きと憧れを抱かせる。
長期間の物語ゆえ端折られ感もあるが、思わず涙のラストまで一気読み。
[寸評]
国際犯罪に対抗するために作られた秘密組織を描く犯罪サスペンスで、作者の得意とするところでもあり、十分楽しめる娯楽作。
ただ話が進むにつれ、グローバルさが徐々にしぼみ気味で、スケールが小さくなっていくのは残念。
機械のように冷徹に仕事をこなす元北朝鮮の女工作員など、いいキャラにはもっと派手に活躍する場面が読みたかった。
物語のほとんどを会話で進めていく書き方は安易な印象。
[寸評]
元は奉行所の与力だったが、故あって侍を捨て、市井で暮らしている男のにわか探偵ぶりを描く短編集。
どれも予定調和的な物語でミステリとしては平凡だが、江戸庶民とりわけ女性たちのバイタリティが感じられる佳作。
人情話としてもそれなりの味わいはあるが、3作目は清四郎や脇役の煮物屋の女将が、過去に囚われ精神的に追い詰められる筋立てで、気持が塞がるような話はこの本には似合わない。
[寸評]
法廷ミステリとして良くできた作品だし、なにより登場する夫婦の決断と絆の深さに感動した。
中盤の仕掛けは何となく見えていて驚きはなく、弁護側の終盤の逆転もそもそもそういう段取りで良かったのか、51歳で県の公安委員長ってあるのとか、司法解剖はどうなっていたのかとか、まぁ突っ込みどころはたくさんある。
それでも、テーマは重いが娯楽性を落とすことなく、上手にまとめた構成には感心しました。
[あらすじ]
13歳のジョニーの双子の妹アリッサは1年前に誘拐され、今も行方不明のまま。
母はアリッサがさらわれたのは父のせいだときめつけ、父は母との諍いの末、家を出て行った。
その後、母は父の雇い主だったケンの囲い者のような身になり、ケンが所有する安普請の貸家にジョニーと住んでいる。
ジョニーは時折学校をさぼり、郡内の家がすべて載っている地図を持って、妹の行方を探していた。
[採点] ☆☆☆☆★
[あらすじ]
徳川四代将軍・家綱の時代。
22歳の安井春海の職分は、碁をもって徳川家に仕える”四家”の一員、すなわち御城の碁打ち衆であった。
毎年秋に生家のある京都を出て、11月に将軍の前で”御城碁”を打ち、大名相手に指導碁を行ったりして、冬の終わりに帰京する。
その朝、春海は登城の途中、宮益坂の神社に寄り道をした。
そこには算術に関する絵馬が所狭しと吊り下げられていた。
[採点] ☆☆☆☆★
[あらすじ]
警視庁組織犯罪対策課の河合警部補は、六本木のストリップバーで飲んでいた。
ここは広域暴力団の山上連合のフロント企業と北海道の水産会社のロシア人社長の共同経営だが、その水産会社そのものが犯罪組織だった。
徹底捜査を続けていた河合は暴力団員ら6人に店から拉致され、産廃処理場で殺されるところを「ブラックチェンバー」という組織の者が6人を射殺し、救われる。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
清四郎の店は、失せもの、人探しは言うに及ばず、時には習い事の師匠探しや揉め事の仲裁まで引き受ける、何でもござれのよろづ屋だ。
職人の平次の打ったかんざしはこの店一番の売れ筋だが、平次は自分の作品に自信がない。
相模屋の主の注文で打ったかんざしがどれも気に入ってもらえないのだ。
そのうち彼は相模屋に奉公している娘にしつこく言い寄ったとして捕縛される。
[採点] ☆☆☆
[あらすじ]
弁護士の佐方の今回の依頼人は殺人事件の被告で、無実を訴えていた。
事件は米崎市内にある高層ホテルの一室。
被害者はルームサービスについてきたディナーナイフで胸を刺されて死亡。
検察は、不倫関係にあった被害者と被告人が交際を巡り口論となり、被告が被害者を刺殺したとする。
佐方は12年前、この地の地方検察庁に在籍していたが、ある事件の処理で職を辞した。
[採点] ☆☆☆★
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