[寸評]
物語は、樺太で生まれたアイヌのヤヨマネクフと、ロシア皇帝暗殺計画に捲きこまれサハリンへ流刑になったポーランド人のブロニスワフの二人を中心に描かれる壮大な歴史ドラマ。
二人は時代の波に揉まれ、国家、政治に翻弄されながらも、人としての尊厳を持ち懸命に生きる。
アイヌら登場人物たちの“熱い”息遣いが聞こえるような物語。
歴史上の人物を登場させるなど史実を巧みに織り交ぜて興味深く、娯楽性も併せ持った力作だ。
先頃、直木賞を受賞した。
[寸評]
登場人物は異なっているが、たいへん好感の持てた「ひと」に連なる作品。
リンクしたような場面が出てくるのは楽しい。
全体として、もはや“小野寺節”とでも言うような淡々とした心地良い語りは健在で、途中に話の急展開もあるのだが、物語のリズムが崩れることはない。
祖父が東京の瞬一を訪ねてくる場面もしみじみと情感に満ちており素晴らしい。
真面目に、誠実に生きる主人公の姿は本当に好ましいし、最後に見せる決意も潔く、思わず応援したくなる。
難民で膨れ上がってはいるが、概ね平穏な、少なくともあからさまに戦争にはなっていない街。
サイードは大学の夜間授業の教室でナディアを見かけた。
コーヒーに誘うが、「また今度にでも」と断られる。
翌日の広告設置代理店での勤務中、サイードの頭からはナディアが離れなかった。
そして翌週、食堂で一緒にコーヒーを飲んだ。
やがて武装組織は街の各地で支配地域を奪いだし、夜間外出禁止令が出された。
[寸評]
内戦状態にあるイスラム圏の街で、出会った若いふたり。
ふたりは戦闘が激化した国からの脱出を図り「扉」をくぐり抜けると、そこはギリシャのミコノス島だった。
他国へ通じる「扉」にSF的要素はあるものの、大規模な難民の発生・流入といった現在の世界が抱える問題が描かれた今日的な物語。
そして心惹かれあった若い二人に徐々に訪れる変化が描かれる恋愛小説でもある。
抑えたタッチで、全編不穏な空気に満ちた物語だが、最後の章は感慨深い。
12月20日。
アメリカ人劇作家、ガスパールはシャルル=ド=ゴール空港に降り立った。
毎年この時期、戯曲を書くため、彼のエージェントが執筆用の静かなアパルトマンを手配してくれる。
一方、イギリス人の元刑事、マデリンは列車でパリ北駅に降り立った。
心の傷を癒やすためアパルトマンを借りたのだ。
画家ショーン・ローレンツが生前暮らしていた家。
ところがそこは二人にダブルブッキングされてしまった。
[寸評]
ダブルブッキングにより偶然同じアパルトマンを借りてしまった男女が、反目し合いながら協力して、急死した天才画家に関する二つの謎に挑むミステリー。
序盤からいい流れで面白く読めるし、後半はスピードを加えてほぼノンストップで楽しませてくれるスリル感ある物語だ。
少々上手く展開しすぎの感じがあるが、細かいことは言わずにエンタメとして読めば良いだろう。
ただし、主人公のふたりがいずれもかなりクセのある人物で、感情移入は無理でした。
[寸評]
物語は、弟分だった古書店主の死の真相を主人公が探る話と、GHQ占領下における日本の古典籍をめぐる話の二本が大筋。
神田神保町を舞台に、徳富蘇峰や太宰治らも登場させ、日本人の歴史観にかかる占領軍の大きな計画が描かれ、ちょっと腰砕け感はあるものの、とても興味深い内容。
一方、古書店主の探偵行のほうは序盤はいいが中途半端な感じで説明的な謎解きに終わり、推理劇としては物足りない。
全体としてはテンポ良く楽しめた。
[導入部]
明治十四年、15歳のアイヌのヤヨマネクフは北海道の対雁村に住んでいた。
アイヌたちは7年前、ロシア人はサハリン、和人は樺太と呼ぶ島から北海道へ移り住んだ。
ヤヨマネクフは石狩川の河辺で五弦琴を弾いているキサラスイに「好きだ」と叫ぶ。
キサラスイは八百人を超えるアイヌが暮らす村でも一番の美人だ。
同い年で親友のシシラトカがヤヨマネクフに憤然と掴みかかってきた。
そこに和人が通りかかる。
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
江藤瞬一は十四年前、九歳のときに宿屋をしていた両親を火事で亡くし、尾瀬ヶ原に近い群馬の片品村で祖父と暮らしてきた。
祖父は山小屋に荷を歩いて運ぶ歩荷をしていた。
瞬一は高校を卒業し、祖父に東京に出てよその世界を知れと言われ、とりあえず上京した。
就職活動もしなかったし、大学に進むでも専門学校に進むでもなく、荒川沿いのアパートに住み丸四年が過ぎた今は引越のバイトをして暮らしている。
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
昭和21年8月、敗戦翌年の神田神保町。
琴岡庄治は古典籍を専門とする業者「琴岡玄武堂」の主人。
親しかった同業者の古書店主の芳松が死んだという知らせを受ける。
倉庫で寝ていたところへ周りの本箱から本が落ちてきて圧死したという。
倉庫に駆けつけるとあおむけの芳松の胴はすべて堅い本の山で覆われていた。
事故死か自然死か、あるいは殺されたか。
庄治の疑問は次第に大きくなっていく。
[採点] ☆☆☆★
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