岸谷万智が自分も狩猟をしたいと感じたのは二十一歳の秋だった。
そのころ札幌で平和な大学生活を送っていたマチは、恋人のアパートでごろごろと時間を潰していたが、ベッド横に積まれた本の山から『狩猟Life』という雑誌を見つける。
マチは夢中で読み漁った。
専門的な記事など何も分からないが、未知の情報を知りたいと思う自分の心は止められなかった。
母に「鉄砲持って狩猟するのってどう思う」と尋ねると、あっさり「いいんじゃない?」という応えが。
[寸評]
ハントレス、文字通り女性狩猟者が、人間として、ハンターとして成長していく姿を描く。
読みやすい文章に物語の流れも滑らかで、狩猟場面はそこそこの緊迫感もあったが、それ以上のものではなかった。
そもそも主人公の女子大生が狩猟に興味を持つくだりが説明不足の感じだし、恋人や友人との別れもやけにあっさりで薄い。
裕福な家庭の娘で身体的にも恵まれたという設定はどうかな。
害獣駆除ならともかく、趣味で動物を撃ち殺しその肉を食らうというのは私は受け付けなかった。
2026年2月7日、土曜日。
群馬と新潟の県境に近い新幹線駅に降り立った六人の男女は、ミステリ系作家志望対象の小説講座の受講生として知己を得た間柄だった。
六人は、一人を除きプロデビューし、ベストセラーを出した者もいた。
彼らは、講座の講師であったミステリ作家の宇宿部彬に、折り入って相談があるということで宇宿部の別荘に招かれたのだ。
駅で迎えを待っていた彼らのもとに、急な所用で迎えに行けないという宇宿部からのメールが入る。
[寸評]
クローズドサークルとなった洋館を舞台とした連続殺人事件を描く王道の本格ミステリー。
集められた六人が皆ミステリー作家であるとか、館には古今東西の処刑道具が置かれているとか、らしい仕掛けが施され期待させる。
お約束どおり一人ずつ殺されていくわけだが、四人目くらいから駆け足になった感じ。
終盤はこれまたお約束どおり犯人が語る事件の顛末なのだが、本作ではさらにひっくり返してくれる。
ただそれが面白かったかと言えば、驚きが面白さにつながらなかった感じ。
16世紀中葉、ルネサンス期のフィレンツェ。
フィレンツェ公コジモ・デ・メディチの娘マリアが、遠縁のフランス王妃カトリーヌに宛てた手紙には、フィレンツェで起きた怖ろしい惨劇が記されていた。
画家ポントルモが、長い歳月をかけて再建作業に取り組んでいたサン・ロレンツォの礼拝堂の作業現場で、遺体となって発見されたという。
画家で建築家のヴァザーリが師のミケランジェロに宛てた手紙には、さらに詳しくポントルモの死の様子が綴られていた。
[寸評]
書簡体歴史ミステリー群像劇。
物語は全176通の手紙ですべてが構成される。
事件は手紙から語られ出し、手紙で捜査され、手紙で大きく展開し、手紙で終幕する。
精緻に築き上げられた物語世界に圧倒された。
中世政治史や美術史に詳しければさらに楽しめたろう。
すべて手紙のため、挨拶や目上の者へのへりくだった調子などがまだるこしく、読みづらさはある。
手紙の書き手、宛名人は多いが巻頭に文通者リストが掲げられ助かった。
中世舞台演劇を見るような読書体験だった。
明治三十九年、帝大生の斎木啓吾は銀座にある新聞社でアルバイトをしていた。
仕事終わりに先輩に誘われ、神田の縄のれんで酒に付き合っていたら、すっかり夜は更けた。
下宿へ向かう途中、西洋風の鉄橋、新万世橋が見えてきた。
鉄橋の上に二人の人影があった。
一人は人力車の車夫で、退屈そうに煙草をふかしている。
もう一人は男で、黒い着物に裁着袴、頭は月代のある髷姿の侍で、顔は血だらけ。
車夫は侍姿の男は視えていないらしい。
あれは人ではない。
[寸評]
明治後期、この世ならざる霊が視える帝大生が主人公の連作怪異譚五話+終章。
まずは自動車や路面電車が走り始めた明治末期の帝都の様子が目に浮かぶように描かれていて感心した。
視たくない人外のものが視えてしまう主人公と、視たいのに視えない子爵家の次男がいいコンビだ。
話は展覧会の写真をめぐる第三話「笑う写真」がとても面白く、続く四話、五話を期待させたが盛り上がりは今ひとつ。
全体にはほんわかした読み味のミステリーホラーだった。
今冬シリーズ第2弾刊行。
ジョン・ハイランドは武装強盗ですでに有罪判決を受けている。
保釈金を払い、ひと月後の量刑手続きまでは自由の身だが、その後は刑務所からたぶん二度と出られない。
そろそろ齢六十。
たぶん獄中で死ぬことになる。
妻のジュエルには今後の安定した快適な暮らしのための金を用意してやらなくては。
そのために人生最後の大勝負に勝たなければならない。
そこでサンディエゴ東方に建つ、難攻不落とうたわれるカジノ<キャッスル>の襲撃を計画する。
(表題作)
[寸評]
中編1作、短編5作のクライムもの作品集。
犯罪娯楽小説の巨匠ウィンズロウは2024年に作家引退を宣言したが、それを翻して発表したのがこの中短篇集だ。
どの作品もウィンズロウの職人技が光る、完成度抜群のめっぽう面白い物語ばかり。
設定が懐かしい「ランチブレイク」や会話文のみで構成される「ほんとの話」など、作者が楽しんで書いているのが伝わる。
中編「衝突」は州刑務所に放り込まれた主人公の過酷な日々が描かれるが、出所後の終盤の緊張感の盛り上げが凄い。
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
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