作家のキョンハはドキュメンタリー映画作家だった友人のインソンから「すぐ来てくれる?」というメールを受ける。
インソンは、四・三事件を生き延びた母親が認知症となり、その介護のため済州島の村の家に8年前に帰り、4年間母親を看病して看取った。
メールは病院からだった。
木工作業中に指を切断してしまい治療を受けているところだった。
インソンはキョンハに、済州島の家に今すぐ行って、残してきた鳥を助けてほしいと頼む。
[寸評]
国際ブッカー賞を受賞したことのある韓国人作家による、二人の友人同士の女性を主人公とした、いま生きる力を取り戻そうとする再生の物語。
もちろん翻訳者の力もあるだろうが、全編たいへん美しい文章の作品だ。
痛ましく美しい幻想的な物語。
一方、取り上げられている「済州島四・三事件」の描写は生々しく、三万人もの住民の武力による虐殺という事実は、お隣の国のこととは言え、今まで知らなかった私には衝撃的だった。
「別れを告げない」という決意が心に残る。
都立頬白高校。
五月に入り創立記念の文化祭が近付いてきた。
各クラス・部活・有志の集まりなど五十以上の団体が模擬店や出し物の内容を決め、当日使用したい場所を実行委員会に申請する。
一番人気は屋上だ。
スペースはわずか一団体分。
希望団体は平和的かつ明確な勝敗がつけられる勝負で対戦し、勝者の団体に当日の使用権が与えられるのだ。
誰が呼んだか「愚煙試合」。
今年の決勝は二年連続優勝の生徒会と一年四組の争いとなった。
[寸評]
頭脳ゲーム短編五編。
主人公が挑むゲームは、じゃんけんや神経衰弱などの手軽なものに一工夫加えて、より奥の深い、対戦ものとしてさらに戦略的で面白いゲームに仕立てられている。
全体に緊張感は今ひとつと感じたが、高校生の青春ものとしても読めて雰囲気が良い。
日本推理作家協会賞を受賞し、直木賞の候補にも挙げられた。
本作の主人公の女子高生は射守矢真兎という名なのだが、それにしても本格推理ものって登場人物の名前が読み難いものばかりなのはなぜかな。
長澤サチコは大学卒業後に派遣で働いていたが不条理な出来事で契約を切られてしまい、たまたま見つけた台湾の求人に飛びついて台北にやってきて、今は日本語学校の教師をしている。
25歳のサチコが暮らす迪化街の1LDKでは、在日コリアンの朴ジュリと同居していた。
ジュリはワーキングホリデーで台湾に来たが、今はサチコの部屋に引きこもっている。
ある日、お気に入りの古道具店で埃をかぶった焦茶色の革のトランクを見つける。
[寸評]
「楊花の歌」が印象的だった作者の最新作。
前作は百合小説の趣だったが、本作のサチコとジュリの関係はさらに深い。
古物商で見つけたトランクに入っていた日本統治時代の台湾を生きた女学生の日記の謎を探るという設定はなかなか面白い。
前半は良いテンポだが、ミステリー的に深みに入っていく後半は少々話がごちゃごちゃして、読解力の続かない私は途中で話についていけなくなってしまった。
日本統治下での台湾人、朝鮮人の生き様がリアルに描かれている。
24歳のローラ・テュレルは人を殺したとヴェルサイユ警察署に出頭してきた。
ローラはレストランで働いているが、毎週レストランが休みの月曜日に、大きな家にひとり暮らしのブリュノ・ドゥロネという不動産業者のところで家政婦として働いていた。
しかしある月曜日、ドゥロネに突然レイプされそうになり、ローラはアイロンを持って反撃。
何度も殴りつけて殺してしまい、死体を庭で燃やし、焼け残った遺骸を池に投棄したと言う。
[寸評]
コニャック・ミステリー大賞受賞のフレンチミステリー。
被疑者の自白に基づいて警察が捜査を始めるが、死体はおろか犯罪の痕跡も発見できない。
まったく先の見えない展開で、まさに五里霧中の様相。
物語はローラと警察のドゥギール警視の語りが中心で、それなりのサスペンスタッチで進むが、とにかくどう物語が転んでいくのか見えず読んでいて戸惑うほど。
よく練られた作品だと思うが、いまひとつ盛り上がりに欠ける印象で、最後は驚きのイヤミスで締められました。
徳川幕府が開かれて六十五年、寛文八年の九月、五百石船の颯天丸は材木を満載し船頭以下十五人を乗せて、尾張の知多郡大野村を出て江戸に向かった。
十月半ばに江戸に到着。
半月ほど滞在し、尾張家から頼まれた数多の植木などさまざまな荷を乗せて、復路に出船した。
二十五歳の和久郎は七番水夫、五年修行した船大工をやめて水夫になったのでまだまだ半人前だ。
颯天丸が三河の沖まで航海してきたとき、いきなり大西風に遭遇する。
[寸評]
江戸時代に出された「尾張者異國漂流物語」という実話をもとにした海洋冒険もの。
先月読んだ「絶海-英国船ウェイジャー号の地獄」と内容的には同種の作品だが、こちらもその壮絶な漂流から奇跡の生還までグイグイ読ませる。
登場人物も七番水夫の和久郎を中心に、多くの水夫がしっかり描き分けられ、彼らが諍いもありながら帰還に向けて協力していく様子は感動的だ。
バタン島住民との交流も興味深い。
生還後の厳しい取り調べも鎖国時代の日本ならではと思わせた。
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
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