◎07年2月


すべては死に行くの表紙画像

[あらすじ]

 ヴァージニア州では、来週、3人の子供を殺した罪で男が死刑に処せられることになっている。 ボディンスンという心理学者が刑務所に来て、今なお無実を訴える囚人と連日面会する。 一方、ニューヨークの私立探偵スカダーは断酒の集会で知り合った女から、恋人の身元調査を依頼される。 その相手が本当はどこの誰なのか、分からず不安なのだと言う。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 元アル中の私立探偵
マット・スカダーシリーズ第16作。 彼とアシスタントのTJとのやりとりなどいい味が出ているが、とんでもない連続殺人鬼が出てくるものの、その怖さが描ききれておらず、スリルが盛り上がらない。 趣向は種々凝らされているが、全体に平板な感じ。 なにか読んでいて説明不足を感じたところ、前作の後編的な位置付けだったそうな。 これ1作でも十分成り立ってはいるが、前作を読んでいれば印象が変わったかも。


白疾風の表紙画像

[あらすじ]

 信長の攻めに果敢に対抗した伊賀の人々は、疲弊しきった織田の軍勢から密かに逃れ落ちていった。 疾風の三郎は、焼き討ちにあった山里で篠と亥五郎という幼い姉弟に出会う。 それから30年。 三郎もはや五十半ば。江戸からそう遠くない谷の村で篠と二人、農業をして暮らしている。 二人が谷に住み着いて数年後、もとは武田の浪人たちがやって来た。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 コンパクトにまとめられた爽快な忍者活劇時代小説で、色香でたぶらかす女忍者まで登場させ、サービス度も高く楽しめるが、4つ星にはちょっと物足りないかな。 全体に展開をもうひとひねり欲しかったし、埋蔵金が争いの原因として描かれるのだが、この設定をもっと膨らませれば娯楽性が大幅アップしたと思うが・・。 また、活字がやや細く、見にくくて気になった。 女忍者との対決、終盤のアクション場面はスピード感、躍動感あり。


エスケイプ/アブセントの表紙画像

[あらすじ]

 江崎正臣40歳。 小学生の時に見た1974年の三菱重工爆破事件で革命に目覚め、やがて左翼活動に入り、2001年アメリカの9・11で覚めた。 これからは妹の始める託児所を手伝うことにした。 一週間たったら妹のところへ行くことにして、見張りの公安刑事に別れを告げて旅に出ることに。 夜行列車で大阪へ向かうが、とりあえずは京都へ降りてみる。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 正臣が語る中篇「エスケイプ」と双子の弟和臣を主人公に三人称で語られる短編「アブセント」の2作。 絲山秋子の作品は、作風、展開、文体などにさしたる特徴はなく、爽快な結末が待っているわけでもないが、全体に心地良く、ありえない設定も妙に自然に心の中に入り込む。 本作は、そういった以前の諸作に比べると弱い。 わざと時期をずらしたような2作の繋がりも、私にはおぼろげにも何かが見えてくるということがなかった。


赤朽葉家の伝説の表紙画像

[あらすじ]

 鳥取県西部の紅緑村。 万葉は昭和28年の時点でおそらく10歳。 彼女は7年ほど前、ある民家の軒先にぽつんと置かれていた。 中国山脈の奥に隠れ住む辺境の人の、色黒でがっちりした体の特徴そのままの子供。 彼女は若い夫婦に拾われ育てられていた。 村の坂の大通りの一番上には製鉄業で財を成す赤朽葉家の真っ赤な大屋敷がそびえていた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 物語は3部構成で、第1部が万葉、第2部がその娘の毛毬、第3部がそのまた娘の瞳子を主人公に、鳥取の旧家の50年を描いていく。 万葉が人の未来を視る千里眼などという設定なので、キワモノめいた作品かと思ったら大間違い。 堂々たる大河家族小説である。 読み進むにつれ、いかにもこのあたりなら多少の不思議なこともあるだろうと納得させる土俗的な描写も、この地方出身の作者ならではか。 娯楽性を併せ持つ見事な物語。


RUN!RUN!RUN!の表紙画像

[あらすじ]

 東京は青山に住む岡崎優はオリンピックのマラソン金メダルを目指す長距離ランナー。 とりあえずその前段階として、大学対抗箱根駅伝に参加するためS大学に入学、陸上部に入部。 優は中学も高校も駅伝で区間最高記録を走るたびに塗り替えた。 入部したのも自分をサポートしてくれる体制が欲しかったため。 部員と話したり行事に出るのは御免だ。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 またまた箱根駅伝ものである。 スポーツ青春もの、駅伝ものって、今、何かのブームなんですかね。 本書は天性のランナー、天才の登場で、そいつがまた自信過剰、自己中心的、めいっぱい傲慢な野郎。 いやなやつ振りがしっかり書かれすぎて、読んでてムカムカした。 そいつが、その天性によって結局・・・になって、仲間とのふれあいに目覚め、ってのは悪い話じゃないんだけど、ちょっと気持ちの変化が書き足りない印象でした。


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