[寸評]
タイムスリップを取り入れたファンタジーミステリー。
10歳の女の子の可愛らしさが良く出ており、全体に切ないトーンが感じられ、読みやすく仕立てられたいい話ではある。
ただ独り身の男が安アパートの一室で正体不明の女の子と暮らすという現実としての不自然さはともかく、中盤は冗長に感じられたし、最後のまとめも長すぎる。
タイムスリップの詳細については素通りで終わった。
表紙と各章初めの装画に描かれた男が47歳にはどうにも見えないのも残念。
[寸評]
妻と無理やり引き離された中国系のミン・スーは、妻を取り戻すため、自分を陥れた者たちに復讐を果たすため、アメリカ大陸をカリフォルニアへと過酷な旅を続ける。
旅程の多くを“奇跡”を売り物にする一座と共にするのだが、この者らの設定、旅のエピソードが興味深く、たまらなく面白い。
ファンタジー色のあるハードボイルド西部劇のロードノベル。
血生臭い殺しの場面も多く出てくるが、ミン・スーの長い行程すべてが不思議な夢の中の出来事のような物語。
[寸評]
立花宗茂を主人公に据えた三話から成る。
一話目は関ヶ原の勝敗の真相に迫る話。
二話目は家光の姉、天寿院と宗茂が鎌倉へ旅する話。
三話目は幕府への謀反の企てについての謀書が引き起こす騒動が描かれる。
本書のメインの一話目は興味深い内容だが、言及される武将が非常に多く、当時の情勢や人物についてある程度知識がないと読み進めるのはなかなか手強い。
硬質、歴史上級者向けの話だ。
千姫に寄せる老武将の思いが詰まった情感たっぷりの二話目がいい。
[寸評]
地方の町で60歳前後のしがないおっさんたちが巨悪に立ち向かうという筋書きだが、今どき巨悪というのもなんだかなあ。
勝ち目の薄い闘いに派手な逆転劇が見られるのかと思ったが、少々できすぎ感も。
結末も痛快とはいかず、いろいろ突っ込みどころがある気もするが、物語はそれなりに面白くテンポよく進み、気軽に楽しめる作品ではある。
おっさんたちの奮闘と言いたいところだがたいした奮闘もないような。
主人公の記者と兄とのエピソードは良かった。
[寸評]
ホラー小説に分類されるのだろうが、怖さはさほどない。
物語は主に、テッドの独白、猫のオリヴィアの人間紛いの独白、そして行方不明になった少女の姉ディーの行動を描く3つのパートで構成されている。
少し読めばテッドが解離性同一性障害であることは容易に知れるだろう。
とりわけテッドの独白の章は精神的混乱を極めている。
どこまでが現実でどこからが妄想なのかまったく判然としない複雑な物語は、ラストまで読み通すのもなかなか手強かった。
[導入部]
七月の半ば、今朝の買い物で購入し忘れたものがあったことに気づき、譲は古いアパートのドアを開け街に踏み出した。
ちょうど雨が上がったばかりのようだ。
すると、道路に引かれた白線の内側に隣のコインパーキングのフェンスに寄りかかるようにして、黄色い帽子をかぶった小さな女の子が地べたに座り込んでいた。
少女は不織布マスクを付け、ずぶ濡れだった。
通りすがりの大人が見て見ぬふりをできる状態ではなかった。
[採点] ☆☆☆
[導入部]
大陸横断鉄道の敷設工事が行われていた頃のアメリカ西部。
中国系のミン・スーは殺し屋稼業。
彼はずいぶん前から、人を殺しても良心の呵責に苛まれなくなっていた。
コリンの町で男をひとり殺したのはたった二時間前で、その男はアンブローズといい、かつてセントラル・パシフィック鉄道で労働者の募集係をしていたが、早くもミンは、そのことを思い返すよりこの先の計画を考えていた。
工事現場の野営地から馬を盗むのだ。
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
立花宗茂は豊臣秀吉から西国無双と讃えられた名将。
関ヶ原の合戦では西軍に与したが、家康、秀忠からその能力を買われ、旧領を回復した。
寛永八年(1631年)、三代将軍家光の時代、宗茂は将軍家の話し相手を勤める「御伽衆」に加えられていた。
10月のこの日、家光より、関ヶ原について話を聞かせて欲しいという要望が申し渡された。
関ヶ原とはどんな戦いだったのか。
絶対優位な陣形で臨んだ西軍はなぜ敗れたのか。
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
一月の土砂降りの冷たい雨の夜。
松山市の屋代川で銀行員の丸岡さんが川に流され溺死。
橋から転落したらしく、警察は事件と事故の可能性を視野に捜査している。
翌日、東洋新報松山支局の記者・宮武弘之は橋の上からじっと川面を見つめていた。
丸岡は弘之が経営者と懇意にしている「みなと湯」という銭湯の設備投資のための融資の相談を受けていた。
この死に方はどうにも気になる。
それに最近の彼の様子はおかしかった。
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
アメリカはワシントン州の田舎町。
寂れた住宅が並ぶニードレス通り。
その奥の暗い森に面した家にテッド・バナーマンは、娘のローレン、猫のオリヴィアと暮らしていた。
今日は“アイスキャンディの女の子”の日だ。
十一年前、湖のほとりにいたその子は消えた。
あの子は六歳だった。
警察は子供に悪さをする恐れのある郡内の人間の家をひとつ残らず捜索した。
捜索中、家を追い出されたぼくは暑い中、外の階段に立って待った。
[採点] ☆☆☆
ホームページへ 私の本棚(書名索引)へ 私の本棚(作者名索引)へ