◎13年9月


暗殺者グレイマンの表紙画像

[あらすじ]

 コート・ジェントリーは”グレイマン”(人目につかない男)と呼ばれる元CIAの凄腕の暗殺者。 今はイギリスの民間警備会社で闇の仕事を引き受けている。 今回、ナイジェリアのエネルギー大臣をシリアで暗殺に成功。 イラクの隠密脱出地点に向かっているとき、米軍ヘリが撃墜され、生き残った兵士がアルカイダらに虐殺されている場面に遭遇する。 ジェントリーは我慢できず武装戦士に向けて発砲した。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 
「暗殺者の正義」が滅法面白くてその前作を読んでみた。 いやはや最初から最後まで、グレイマンと彼を狩る者たちの攻防が物凄いスピード感をもって描かれていきます。 12か国の暗殺チームに追われて1発の弾も受けないということはさすがになくて、グレイマンはまさに満身創痍、半死半生になりながらも突き進んでいきます。 そのあたり、相当に無理があるところだが、まあ細かいことは抜きにして、この激烈な闘いを楽しめば良いということですな。


家族写真の表紙画像

[あらすじ]

 私は59歳。 16年前に妻の泰代が亡くなり、子供を2人抱えて、時間の不規則な営業部から残業の少ない職場へ異動希望を出し、以来庶務一筋。 あと半年で定年退職となるので、課長として新しく何かを為すことはせず、会議でも聞き役に徹している。 仕事を終えた娘の準子がケーキを買って帰ってきた。 何か話がある証拠だ。 彼女は結婚話を切り出してきた。 今度相手を家に呼ぶと言う。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 さまざまな家族の形を描いた作者らしい軽妙なユーモアの短編集。 54歳になって「サザエさん」の親父を目指そうという「磯野波平を探して」や、写真館を営む家族を描いた表題作など、どれも熟練の巧みさを感じさせる家族小説である。 しかし私が最も気に入ったのは、7編の中では異質の、バイトを首になった51歳の独身男がマネキンを拾ってきて繰り広げる疑似家族話「プラスチック・ファミリー」だ。 彼の変化、そして切ない光の幕切れも涙もの。


ジェイコブを守るための表紙画像

[あらすじ]

 アンディ・バーバーはミドルセックス地区の首席地区検事補。 14歳の少年ベン・リフキンが通学途上の公園で胸を3か所刺され殺された。 アンディのひとり息子ジェイコブはベンと同じ学校の同級生だった。 アンディがこの事件の担当検事となるが、発生から5日が経過しても事実の解明はほとんど進まなかった。 そこに検事局直属の特捜班から、公園の近くに住む小児性愛者の情報がもたらされる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 法廷劇であり、家族の物語であり、サイコスリラーともいえる物語で、500ページを超える長尺だが、中だるみなく、お約束の意外な展開もしっかり。 ラストは衝撃的で、子供を持つ親としてなんともやるせない。 物語のかなりの部分を占める法廷シーンは、検事と弁護士の丁々発止の攻防を期待する向きにはもうひとつというところ。 検事の無能ぶりが誇張され過ぎ緊迫感が薄まってしまっている。 ともかく最後まで面白く読める作品で、採点はやや甘め。


奇譚を売る店の表紙画像

[あらすじ]

 商店街の片隅にある古本屋で、格好の掘り出し物と思って買った収穫も、店から出た途端、夢から覚めた気分に。 購入したのは二十ページ足らずの冊子で、表紙には「帝都脳病院入院案内」の文字。 帝都脳病院は明治の末、東京に開院したわが国の精神病院の草分け。 院長の巻頭文や写真、病院規則、設備の紹介など。 その後私はろくに外出もせず、病院の模型作りに寝食を忘れて没頭した。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 古本屋で購入した本や印刷物から奇妙な出来事に巻き込まれ、という物語が5編と、それらをとりまとめる形の1編からなる短編集。 本好き、古書好きの人なら必ず食いつくような設定で、とりわけ最初の「帝都脳病院入院案内」の奇譚ぶりは見事だ。 これはと期待も大きくなったが、2話、3話と進むにつれテンションがだんだん下がる出来でした。 最終話のまとめの奇譚ぶりもちょっとページ数が少なすぎて、もう少し楽しませて欲しかったですね。


大地のゲームの表紙画像

[あらすじ]

 夏の日、巨大地震に見舞われた首都。 大学内の建物は倒壊を免れたものが多く、一時的な宿泊所として開放された学館にはまだたくさんの学生たちが住みついている。 私も兄と住んでいたアパートが倒壊の危険性大で立ち退き勧告が出ており、学館で寝泊まりしている。 私の男も家は無事だが大学から離れない。 私は反宇宙派に属し、学祭で政治劇を上演する。 リーダーは演説もする予定だ。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 巨大地震に見舞われ、一年以内に再度の地震が警告されるという状況下での、大学内における群像劇。 国中が混沌の中にあるとき、大学という若者だけの集まりの狭い世界で綴られる恋愛ゲームのような話で、物語世界に入り込めない。 主人公の属するグループのリーダーで、学内の政治的リーダーと目される男の演説も、政治と言うより道徳を説いているようで、カリスマ性が感じられず。 極限状況下での狂気は少しは表現できていたかな。


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