◎22年10月


ギャンブラーが多すぎるの表紙画像

[導入部]

 チェット・コンウェイはギャンブル好きのニューヨークのタクシー運転手。 ある日、ケネディ空港からマンハッタンまで乗せた客からチップ代わりに競馬の勝ち馬の情報をもらう。 さっそくノミ屋のトミーに電話して35ドルをその馬に賭ける。 午後、ラジオで結果を聞くと一着ではいったという。 トミーに電話すると、借りを差し引いて930ドルになった。 5時過ぎ、トミーのアパートに行くと彼は血だらけで死んでいた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 主人公はノミ屋の殺害直後に居合わせて容疑者にされた上、ふたつのギャング組織から追われることになる。 主人公の関心は殺人犯は誰かではなく、誰が自分に930ドルを払ってくれるのか。 一難去ってまた一難、次から次へと繰り広げられる脱出劇の大騒動。 ハラハラドキドキの連続に加え、ユーモアたっぷりの軽妙な会話ともちろん勝ち気な美女も登場と、サービス精神旺盛なドタバタサスペンスコメディだ。 結末はあっけないが、気楽に楽しめる軽快な作品。


祈りも涙も忘れていたの表紙画像

[導入部]

 甲斐彰太郎は二十六歳の春、V県警本部の捜査一課に管理官として赴任した。 所属警官一万一千人の大所帯の中でキャリア警察官は本部長と甲斐だけだった。 甲斐は実地経験のないまま管理官として捜査の指揮を執る立場となったのだ。 赴任三日目の夜、変死事案が発生し、所轄から本部捜査一課に出動要請が入った。 当番日だった甲斐は四係班長の渡辺警部と臨場する。 倒れた若い女性には絞殺体の特徴が見られた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 県警に赴任した新人キャリア警察官が、やがて巨悪に立ち向かっていく警察小説。 序盤、部下から面従腹背の扱いを受け苦しみながら、自らの立場を明確にして主導権を握っていくあたりは面白い。 その後殺人事件が連続し関連性も見えない中での捜査過程は面白く読めるが、徐々にごちゃごちゃした感じになり、終盤は急ぎすぎて強引な印象。 全体には一昔前のハードボイルド小説の趣で雰囲気は良く、やや感傷的な主人公の造形は魅力がある。 採点はやや甘め。


殺しへのラインの表紙画像

[導入部]

 作家のホロヴィッツは新作『メインテーマは殺人』の出版を三か月後に控え、探偵ホーソーンとともに出版社から販売戦略についての打ち合わせに呼び出される。 そこでチャンネル諸島のオルダニー島で開催される文芸フェスティバルへの参加を打診される。 フェスの後援はオンライン・カジノの会社だという。 予想に反してホーソーンはその申し出に乗り気だ。 六週間後、二人は島へ飛ぶ飛行機に乗るため空港へ向かう。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 作家ホロヴィッツ&元刑事ホーソーンのコンビの犯人当てミステリーの第三作。 殺人事件が起こるまで150ページ近くを費やし、ほとんどが文芸フェスの話なのだが退屈さはまったくない。 事件が起きてからは奇妙な謎もしっかり用意され、捜査劇もテンポよく語られていく。 終盤はひとつの大きな驚きをもとに、外側から徐々に真相に迫っていき謎を解くホーソーンの推理に唸らされる。 犯人に至る手がかりをいろいろなところにちりばめた構成は見事だった。


夜の道標の表紙画像

[導入部]

 小学六年の仲村桜介はミニバスの選手。 帰りの会が終わるや学校を飛び出し、家にランドセルを置き、バスケットボールを持って自転車で公園へと急いだ。 公園にはミニバス用のゴールが設置されている。 橋本波留と待ち合わせだ。 先に着いたのは桜介で、ジャンプシュートの練習を始めたところで波留が現れた。 波留は身長が百八十二センチある。 波留はシュートを外すことも少なく、1on1では鮮やかに抜き去られる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 学習塾経営者の殺人事件の指名手配犯を中心に据え、二人の男子小学生(一人は親から虐待を受けている)、スーパーに勤める孤独な三十代の女、窓際に追いやられた刑事を配したミステリードラマ。 それぞれの視点で物語は交互に語られ、守るべきもの、信じるものがドラマチックに描かれ、心に刺さる話になっている。 終盤に判明する殺人の動機は辛く悲しいもの。 ただラストは、これで終わりはないと思う。 登場人物それぞれのその後を描いて欲しかった。


汝、星のごとくの表紙画像

[導入部]

 十七歳の青埜櫂は瀬戸内の小さな島の高校に通っている。 母子家庭、父親は櫂が生まれてすぐ胃がんで死んだ。 母親は一時たりとも男なしでは生きられない女で、今回も京都で知り合った男を追って、櫂を連れて島へとやってきて、島で唯一のスナックをやっている。 櫂は漫画や小説を投稿するサイトで知り合った久住尚人と原作と作画でコンビを組んだ。 そして仕上げた投稿作が、去年大手出版社の青年誌の優秀賞を獲った。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 高校の同級生、青埜櫂と井上暁海のラブストーリーで、高校時代から十五年間ほどの二人の道のりを、交互の語りで描いていく。 櫂が上京したことで二人の心が離れていくという、よくある遠距離恋愛破綻ものかと思ったら、さすが
「流浪の月」の作者、抉るような人間関係がたいへんドラマチックに、重く悲しく展開する。 数々の社会問題と共にさまざまな愛の形が描かれ、暁海の覚悟を持った生き方が潔く、櫂の壮絶な人生の描き方にも圧倒される凄みがある。


ホームページへ 私の本棚(書名索引)へ 私の本棚(作者名索引)へ