◎20年4月


流浪の月の表紙画像

[導入部]

 家内更紗は小学生。 更紗は両親ふたりが大好きで、この幸せが永遠に続くものと信じていた。 しかしお父さんは亡くなり、お母さんも更紗を残して消えてしまい、伯母さんの家に引き取られた。 しかし従兄からセクハラを受け家に帰りたくない。 学校帰りの児童公園にはいつもベンチに若い男の人が座っていた。 周りからはロリコンと呼ばれていたが、家に帰りたくない更紗は彼のマンションへ。 そこは安息の場所だった。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 物事には世間の受け取る事実と真実が異なることが往々にしてあるだろう。 図らずも事件の加害者と被害者となってしまった二人が15年の時を経て再び出会う。 辛い話だ。 苦しむ二人に読んでいる方も苦しく、思わずページを閉じたくなるような辛い物語。 世間の冷たい目にさらされ、お互いに傷つきながらなお惹かれあってしまう。 まるで嵐のような作品で、読み応えがあった。 主人公の二人に訪れた平穏な日々が少しでも長く続くことを祈らずにはいられない。


探偵コナン・ドイルの表紙画像

[導入部]

 1888年9月。 ポーツマスの開業医であり、探偵シャーロック・ホームズの登場する小説「緋色の研究」を出版したコナン・ドイルのもとに、前首相グラッドストーンからロンドンでの仕事の依頼が。 ロンドンで待っていたのは秘書のウィルキンズ。 先月から起きている連続殺人事件について、諮問探偵となって警察の仕事を再確認し、捜査の道筋を提案してほしいと言う。 ドイルは医学校の恩師ベル博士の支援を提案する。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 ホームズの生みの親コナン・ドイルが、当時イギリスを震撼させた切り裂きジャックの捜査を行うという趣向の冒険推理小説。 ドイルの恩師ベル博士がホームズ役となり、ロンドンの地理に詳しい男勝りの作家ミス・ハークネスも加わって、三銃士よろしくタッグを組んで切り裂きジャックに挑む。 陰惨な殺害が連続するが、全体のテンポは緩やかな雰囲気。 鮮やかな推理というよりも犯人に踊らされる3人という構図だが、史実を適度に交えて面白く仕上げている。


友だちの表紙画像

[導入部]

 ニューヨーク。 かつての恩師で、誰よりも心を許せる男友だちが自殺した。 私はあまりにも長いあいだ激しく泣き続け視界がぼやけてしまった。 お別れの会には、現在の妻の他、先妻、先々妻も出席していた。 現在の妻から犬を引き取って欲しいと頼まれる。 5歳くらいのアポロという名のグレートデンの大型犬。 わたしのアパートでは犬を飼うことは認められていないと断ったが、結局預かることになってしまう。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 特別な結び付きがあった男友だちの残した大型犬と、狭いアパートで心ならずも同居することになった女性作家の独白が綴られる。 主人を亡くした老犬との心の交流が描かれる作品だと思っていたら、そういう場面は少なく、女性作家の脳裏をよぎるさまざまな想いが綴られた作品で、ストーリーは特にない。 男友だちの自殺については後半に思いがけぬ反転が語られるのだが、なんだかそこまで読んで裏切られたような気分になった。 全米図書賞受賞作。


欺瞞の殺意の表紙画像

[導入部]

 昭和41年7月、福水市の名だたる資産家の楡邸。 この日は楡家の先代当主・楡伊一郎の五七日の忌日にあたり、家族とごく身近な関係者による三十五日法要が営まれていた。 邸内にいた人間は家政婦も入れると総勢十人。 表面上は和やかに進行していた法要後のティータイムで伊一郎の長女の澤子が突如として吐き気を催し苦しみ始めた。 苦しみ方は尋常でなく救急車が呼ばれる。 毒物摂取の疑いが濃厚だ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 多くの証拠が自分を指す中、死刑判決を逃れるため犯してもいない罪を告白し無期懲役となった元弁護士が、42年の服役後仮釈放となり、当時恋人だった女性と書簡を送り合い、二人で真相の推理を繰り広げる。 事件が描かれるのは50ページ程度、あとは書簡のやり取りと解決編という本格推理もの。 真犯人が二転三転する書簡による推理合戦がサスペンスフルで面白く、トリックも男女の愛憎もそれなりに描かれ、解決編にも納得。 採点はちょっと甘め。


ぼくはイエローでの表紙画像

[導入部]

 著者は英国の南端にあるブライトンという街で、大型ダンプの運転手をしている夫と息子の3人暮らし。 息子はカトリックの小学校に進学した。 そこは市のランキングで常にトップを走る名門校で、フワフワしたバブルに包まれたような平和な学校で、息子は最終学年には生徒会長も務めた。 ところが彼はカトリックの中学校に進学せず、元底辺中学校に入学したのだ。 殺伐とした英国社会を反映するリアルな学校だ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 福岡出身、英国在住の著者の息子が入学したのは常に学校ランキングの底辺にいたが今はランクの真ん中あたりまで浮上したという元底辺中学校。 この本はそんな息子や友人たちの中学校生活の最初の1年半を描いたノンフィクション。 見渡す限り白人英国人だらけの学校の中で顔が東洋人の著者の息子。 経済的格差や人種差別などの問題が山積みの学校生活の内外で、苦しみ悩みながら成長していく彼の真っ直ぐな心がたいへん好ましい良作。


ホームページへ 私の本棚(書名索引)へ 私の本棚(作者名索引)へ