◎96年8月



[あらすじ]

 有森恵美はパソコン通信ネットで一部に熱狂的な人気を持つアイドルだが、その正体は誰も知らない。 警視庁少年課の宇津木は本人の出ない有森恵美のコンサートに調査の一環として出向き、殺人事件に出くわす。 所轄署の安積警部補は殺された少年の友人関係を中心に宇津木と協力して事件の解明に乗り出す。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 今野敏の作品は、とても面白かった
「蓬莱」以来1年半ぶりです。 殺人事件そのものは今一つ盛り上がりには欠けますが、ネット上で増殖していった有森恵美なるアイドルが果たして実在するのか、というあたりの追跡が興味深く読めました。 本庁かぜをふかす刑事の扱いや宇津木の切れかけた家族との絆が徐々につながっていくあたり、一歩間違えば臭くなるところ、嫌みなく描かれていたと思います。



[あらすじ]

 カリフォルニア州S市のハンバーガーショップで苫江利夫は大地震に遭遇し、見知らぬ男女5人と共に建物内に閉じこめられる。 そこには人間の人格を他人の肉体に転移してしまう奇想天外な装置があり、6人は順繰りに人格が転移していく。 そんな中で殺人事件が起こり、江利夫も何者かに襲われる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 
「七回死んだ男」で狂喜し、「殺意の集う夜」でやや失望した西澤保彦の最新作。 設定がとにかくぶっ飛んでいます。 とにかく6人の人格が突如転移していくので、登場人物は肉体の名前の後に人格の名前をカッコ書きされており、読み手もこんがらがってしまいますが、その混乱を楽しもうという気にさせてくれます。 思わず微笑んでしまうラストも素敵でした。



[あらすじ]

 子供の頃、家の近くにいた国籍、性別、年齢不詳の玩具修理者。 どんなに古く複雑なおもちゃも完璧に直してしまう。 ある夏の日、赤ん坊の弟をおんぶしていた少女は歩道橋から転がり落ち弟は死んでしまう。 少女は弟を玩具修理者のもとへ運んでいく。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 表題作は日本ホラー小説大賞の短編賞受賞作とのこと。 相当に気持ち悪いが、良くできたホラーです。 もう1作のタイムトラベルを題材にした中編「酔歩する男」も面白かった。 あまりに頻繁なタイムトラベルで途中でなんだか分からなくなってしまいそうでしたが、最後まで引き寄せられる話でした。 今後期待できそうな作者です。



[あらすじ]

 タレントの清水ミチコが、ミュージシャン、タレント、女流作家から禁断の皇室まで老若男女70人あまりを顔マネした写真とマネのポイント、エピソードなどを書きとばした傑作本。

[採点] ☆☆☆☆★

[寸評]

 こういった本は今までも暇つぶしに読んで(見て?)はいても、このホームページには紹介してきませんでしたが、これは例外で載せました。 もう最高です。 特に細川ふみえ、桜田淳子、小沢健二、上祐など超似ている。 そしてそこまでやるか、という感じのポカホンタス。 落ち込んだ時などに見ればいやなこともすっかり忘れてしまいそうなパワーのある本です。



[あらすじ]

 垂里冴子は33才、独身。 物静かな性格で、聖書から電話帳まで文字の書いてあるものは何でも読みたくなる本好き。 彼女には10才下の派手で恋愛発展家の妹と高校生の弟がいる。 叔母の紹介で何回も見合いするがその度に事件が起き、冴子が真相を推理するという短編集。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 主人公冴子の性格そのまま、殺人事件もあるのに、ほんわかとしたさわやかな気持ちの良いミステリー。 妹の空美の、姉と対照的にドタバタなキャラクタも抜群。 謎の方はどの回も途中で割れてしまうようなものばかりだが、全体の雰囲気が良いので許してしまえる。 このシリーズは是非続けてほしいです。


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▲「蓬莱(ほうらい)」
 ゲームソフト会社の社長が新作シミュレーションゲームの発売を中止するようやくざに脅される。 そのソフトの開発者が死亡し、事件の背後に大物政治家の影が見えてくる。 徐福伝説の説明が長くて閉口したが、深まった謎がプログラムの奥から浮き出てくるラストまでサスペンスたっぷりで一気に読ませる。