[寸評]
インド人ジャーナリストによるジム・トンプスンばりの暗黒ミステリ。
物語は、インド人起業家が、中国の温家宝首相に宛てた手紙の形式をとっている。
この世に生を受けた時から決められている、”鶏籠”、”使用人”から脱け出すため、主人公の内なる殺人者がいかにして姿を現していったかが、娯楽性を伴って描かれる見事な作品。
同時に、急速な経済発展を続けるインド社会・民衆の実像が赤裸々に、かつ辛辣に描かれている。
[寸評]
ホームズに心酔するカウボーイの推理劇をドタバタ調に描くシリーズの第2作。
前作に引き続き、奇抜な設定だけが売り物ではない、サービス精神旺盛の冒険娯楽推理活劇になっている。
すべて弟の語りで進められるが、相変わらずのへらず口やジョークをたたきながら悪戦苦闘する二人の姿は傑作。
登場人物は多いが、敵か味方か疑心暗鬼のスリルあり。
走る列車が舞台のため、今回はアクション場面もたっぷりだ。
[寸評]
装丁からして傑作「OUT(アウト)」と対の作品を思わせるが、ジャンル、テーマ、内容ともまったく異なる。
主人公が小説執筆のため、私小説の傑作に記号で登場する女性を特定しようという試みが、主人公自身の恋愛劇と絡み合って描かれるが、終始張りつめた緊張感が味わえる作者らしい作品。
とりわけ終盤の緑川夫人との対面と夫人の所業は衝撃的。
強烈な愛憎劇だが、幽霊の場面だけは少々安易な印象を受けた。
[寸評]
なんと前作から9年ぶりの新編登場です。
もはや新作は出ないものと少々さびしく思っていたので、期待は大でしたが、本を重ねるごとに★ひとつずつ下がっていくのは残念。
ペンギンと見合いする(?)のが御愛嬌の短編と、作者の他の作品に登場したアメリカ人の東京茶無と見合いする中編の2作。
ダイイングメッセージとかの仕掛けは手堅いものの、本格がちょっと苦手でドタバタを期待する私としてはこの採点。
[寸評]
ブッカー賞作家が別名義で書いたミステリ。
といっても、私はその作家も知らないが、人間ドラマとしてはなかなか読み応えのある作品だった。
自らの出自と照らし合わせ、消えた女と乳児の行方に執着する主人公のほか、心に傷を負った者、屈折した者、謎を秘めた者が多数絡み合う。
ミステリとしては、かなり早い段階で犯人(?)の目星がついてしまい、そのままの結末で驚きなし。
誰でも見当がついてしまうのでは。
[あらすじ]
主人公のムンナは、インドのガヤ地方ラクスマンガールという貧村の生まれ。
ちなみにムンナとは”男の子”という意味の単語で、人の名前とは言えないようなもの。
父は人力車夫で、ムンナには読み書きを覚えさせようと学校へ通わせてくれた。
しかし従姉が結婚することになり、花嫁側は莫大な持参金が必要なため、我が家も借金し、ムンナも学校をやめ茶店で働くことになる。
やがて父が結核で死ぬ。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
グスタフとオットーの兄弟は職にあぶれたカウボーイ。
グスタフはシャーロック・ホームズに心酔しており、あちこちの町で探偵事務所を訪ね回るが仕事口はない。
ふとしたきっかけで有名な捜査官ロックハートと知り合い、鉄道会社の保安係として雇われる。
しかしグスタフは列車に弱く、乗り込んでそうそう具合が悪くなる。
そんな時、鋭い衝撃音とともに列車の下から人間の頭が跳ね出てきた。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
小説家の鈴木タマキは、「淫」という小説を書こうとしていた。
「淫」のテーマは恋愛における抹殺。
主人公は、緑川未来男が書いた小説「無垢人」に登場する「○子」を据えた。
「○子」は緑川の愛人で、それを知った緑川の妻は激しく嫉妬し、その修羅の日々を赤裸々に描いたのが小説「無垢人」なのだ。
タマキ自身も家庭のある身で、編集者の阿部青治と愛し合い、1年4か月前に別れていた。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
何度お見合いをしても縁遠い冴子。
なぜかお見合いがらみで事件に巻き込まれることが多く、しかし読書家で推理力旺盛の冴子はいくつも難事件を解決してきた。
普段冴子は作家を目指し、小説執筆の毎日。
今回の見合い相手は、水産研究所で父の部下だった男で、今は現場で海洋生物の生態を学びたいと申し出て、水族館の飼育係をしている。
お見合いは水族館で行うことになった。
[採点] ☆☆☆
[あらすじ]
クワークは、ダブリンにある病院の病理科医長。
看護婦の送別会で酔っ払い、真夜中過ぎに自分の縄張りの死体安置室に入ると、産婦人科医長のマルを見つける。
彼は急ぎファイルを隠す。
ストレッチャーには若い女の死体。
翌日、死体は消えていた。
マルに尋ねるが質問をはぐらかして答えない。
クワークは孤児院からマルの父に引き取られ兄弟同然で育ったが、今は心が通い合わない。
[採点] ☆☆☆★
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