デ・ヒルシュ男爵、州警察のベインズ警部補、そして私の三人は迷宮入り殺人事件について論じていた。
男爵は絢爛たる推理と論理を駆使して、警察ファイルにいまだ未解決と記載されている有名事件を解決してきた。
警部補はブロンドの恐喝女の事件を解決して欲しいと頼む。
それはマリアン・モントローズという女が雪の積もった石段を上って丘の頂上の家に着き、その家に入って以後、彼女は二度と出てこなかった。
(「ガラスの橋」)
[寸評]
物故して半世紀以上経過しているミステリー作家の自選作品集。
短編十編を収録。
不可能犯罪ものを主に、犯人や被害者の消失もの、ホームズへのオマージュなどヴァラエティに富んでいる。
傑出した作品はなく、さすがに若干の古さを感じさせるが、この作家の代表作とも言われる表題作は、奇想に近いトリックがなかなか。
ミステリーマニアの老嬢姉妹が悪党を手玉にとる「極悪と老嬢」のコミカルな味もいい。
冒頭の「マニング氏の金の木」も皮肉が効いている。
天文二十三年(一五五四)三月、五十八歳の毛利元就は、西国最大の大名・大内家を事実上取り仕切っている陶晴賢(すえはるたか)の首を取り、西国を切りしたがえる謀を煮詰めるため、舟に乗り密かに厳島に向かっていた。
毛利勢と大内勢、彼我の戦力をくらべれば三、四千対三万近く。
まともにぶつかって勝ち目はない。
奇襲しかないと元就は考える。
元就は智謀と粘り強さを武器に、小勢力・毛利を守り乱世を生き抜いてきた。
[寸評]
兵力四千の毛利元就軍が二万八千の陶晴賢軍を打ち破った“日本三大奇襲”のひとつ「厳島の戦い」を描いた戦国ドラマ。
ほとんどが戦いと戦いに関連した話なのだが、とにかく合戦シーンの迫力が半端なく、迫真の肉弾戦が臨場感たっぷりに描かれ興奮させられた。
また登場人物の描き分けも巧みで、とりわけ後半、陶軍の武将・弘中隆兼の人間的魅力が爽やかに描かれ魅了される。
一方、主役であるはずの勝った元就が不気味なダークヒーローとして描かれているのも面白い。
理佐は短大進学予定だったが、入学金を母親が付き合っている男のために使ってしまった。
理佐が小学四年の時に母親は離婚し、以来妹の律を加えた女三人でしっかりやってきたと思うが、心のどこかで男の人に頼りたかったのだろう。
その男は婚約者という態で家に入り浸り、理佐より十歳年下の律に対し父親のように振る舞った。
勉強ができないとご飯抜きとか家から閉め出したり。
理佐は律を連れ家を出て働くことを考える。
[寸評]
全編通して、人と人との助け合い、優しい良心がいっぱいの物語だがもちろん不満はない。
四話+エピローグという構成。
最もページ数の長い第一話が本当に素晴らしく、姉妹と周りの人々との交流が暖かく、最後は胸に迫るものがあった。
第二話からは一話ごとに十年ずつ経過させていき都合四十年の長い物語だが、新しい登場人物を加えて出会いと別れを繰り返し、飽きさせない。
ヨウムという種類の鳥のネネの扱いが巧みで、愛おしくなった。
読み終わるのが惜しかった。
佐田誠は地方都市の平凡な高校二年生。
誠は東京への修学旅行の班分けの日に学校を休んだ。
班分けに立ち会ったところで、どうせ足りてないとこに入れてもらうだけだから。
翌日学校に行くと三班に入れられていた。
三泊四日の修学旅行、三日目は全体で東京ディズニーリゾート。
二日目は班ごとの自由行動日だ。
とりあえず三班は二日後のロングホームルームの時間に各人の行きたいところを出し合い調整することになった。
[寸評]
主人公は修学旅行の自由行動日に単独で、中三の正月以来会っていない日野市に住むおじさんを訪ねることにするが、同じ班の男子三人も行動を共にする。
その冒険(?)の一日を描いた青春もの中編。
最初はばらばらだった班員たちが徐々に距離が縮まって、不器用に連帯していく様子が自然に描かれていて好感を持った。
高校生らしく完全に大人にはなりきれてはいない若者らしさが言動ともよく表現されている。
作者は芥川賞4回目の候補となったが、今回も受賞ならず。
ハーヴァード大学生のサム・メイザーは、二〇世紀も残りわずかな年の十二月も終わりに近付いた日の午後、地下鉄を降りたところで子供時代の親友、セイディ・グリーンの姿を見つける。
セイディはゲーム作りを学ぶマサチューセッツ工科大学の学生だ。
二人は昔、ロサンゼルスの病院のゲーム・ルームで〔スーパーマリオブラザーズ〕をプレイした仲だった。
旧交を温め、別れ際にセイディは自作ゲームのディスクをサムに渡す。
[寸評]
ゲームを共同開発していく男女の四半世紀にわたる関係を描く。
マリオやドンキーコング、パックマンなど懐かしいゲームが登場して楽しくなるが、ゲームに詳しくなくても物語を読むのに問題はない。
サムとセイディにプロデューサー役のマークスを加えた三人の、友情、愛憎半ばする関係、ゲーム作りを通した人生の物語は、読み応え十分だ。
天才クリエーターたちの波乱に富んだ生き様がボリュームたっぷり、人種やジェンダーの問題も加えて、存分に描かれている。
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
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