◎98年5月



[あらすじ]

 離婚して14才の娘と二人暮らしのリンズィは、娘が元夫と過ごす土曜の夜には寂しさを紛らわせに外へ飲みに出る習慣になっていた。 ある晩、レズ女性の集まるバーに入ってしまったリンズィは2人の女性と意気投合し、2次会にオフィスのボスの部屋へ入り愚痴をこぼし合っていた。 そこで各々の殺したい相手をもともと面識の無いお互いが順番に殺していくトリプル交換殺人の話が持ち上がる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 相変わらず掟破りのSFまがいの設定を取り入れた本格推理もの。もはや西澤節として確立されたジャンルという感じで実に手慣れた印象。 いたる所に伏線を張り巡らし、最後にパズルのようにそれらを見事にあてはめていく技はお見事。 今回もとんでもない小道具が出てくるのだが、毎回小道具というかSF的設定を変えるだけでワンパターンと言えなくもない。 しかし会話中心の展開もお気楽で、気軽に楽しんで読めます。



[あらすじ]

 一人暮らしの女性を狙った連続強姦殺人事件。 容疑者として逮捕された河原輝男は容疑を否認したが判決は無期懲役。 河原は冤罪事件を糾弾するグループの支援を得て控訴。 恋人を殺されたフリーライターの五十嵐も真実を知るため獄中の河原に接触した。 結局事件から12年を経て無罪判決が出る。 しかし自由の身となった河原を犯人と信ずる被害者の親は執拗につけ回す。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 折原一らしい謎が一杯の推理サスペンス。 現実の進展に夢や幻想が巧みに織り交ぜられ、伏線が縦横に張られ、思わせぶりな描写が続き、最後の最後まで引きつけられる。 残酷非道な描写もけっこうあるが、それを売り物にしない作者ゆえさほどの不快感はない。 複雑な構成ではあるもののテンポがあってとても読みやすい。 警察の影がやけに薄いのが気になるが、騙されるのを楽しむ気にさせてくれる作品。



[あらすじ]

 元警察官の花咲は新宿2丁目にある無認可保育所の園長。 場所柄、外国人ダンサーの子供たちが多い。 保育所の赤字補填のため、花咲は時々探偵事務所のやばい仕事も請け負っており、園との掛け持ちで毎晩眠る暇もない忙しさだ。 今回の仕事は、シマを荒らして隣の暴力団に捕まり、自分の組からも見放された若者を姉の依頼で引き取り交渉に行くといういやな仕事。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 近年、女性刑事の緑子(りこ)シリーズが人気という作者の私立探偵もの。 私はこの人の本は初めて読むが、人物設定、ストーリー、語り口とも嫌みがなく素直なタッチで好感が持てた。 いろいろと過去のある人物が次々に出てくるが、誰も皆少しずつ書き足りない感じ。 少々話がうまくつながりすぎで、事件の中核となる謎の部分も私にはちょっと疑問符付きでしたが、シリーズ化も期待して採点はやや甘め。



[あらすじ]

 東京北千住にある高層マンションの20階の部屋で中年男女と老女が殺され、その部屋の真下ではそこから転落死した息子と思われる若い男の死体が発見される。 やがて殺されていたのは住民台帳にあるこの部屋の持ち主の小糸一家ではないことが判明。 それではこの死体たちははたしていったい誰なのか。誰が彼らを殺したのか。 そして小糸一家はどこへ行ったのか。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 事件解決後に、当事者、関係者らへのインタビューによって事件の全容を再構成してみせるノンフィクション形式の犯罪ドラマ。 佐木隆三ばりのドキュメンタリータッチで、事件と関係者各々の”理由”を克明かつ丁寧に描写していく。 崩れゆく家族の絆、家族関係が容赦なく描かれており、救いの部分が少ない物語で今までの宮部みゆきの作品には見られないもの。 徐々に真相が明らかになる様はスリリングで力作だが、全体のスタイルから娯楽性にはやや乏しく、重めの作品でした。



[あらすじ]

 オレゴン州ポートランドで女性の連続失踪事件が起きた。 いずれも自宅から忽然と姿を消し、あとには黒い薔薇と”去れど忘られず”との書き置きが残されていた。 その頃、新進の女弁護士タネンバウムは有名実業家ダライアスから、警察の捜査を受けるようなことがあった時には弁護するよう依頼される。 やがて10年ほど前に同様の事件がニューヨーク市郊外で起きていたことが判明する。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 以前から読みたかったが、文庫本になったところで手を出してみました。 アメリカの犯罪ものらしい異常で残虐な犯行手口は辟易ものだし、少々強引な筋立ては気にかかるが、スリルとサスペンスに富んだ期待通りの面白本。 最初から最後までダイナミックでかつあっと驚く展開が続く。 物語の柱の一つとなる法廷シーンが物足りないのは残念でしたが。 それと巻末の北上次郎氏の解説も読み逃せない。


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