◎03年10月



[あらすじ]

 寛永三年(1626年)、江戸にある将軍家兵法指南役の柳生但馬守宗矩の屋敷に二人の韓人が訪れた。 韓人の一人の孫(ソン)は22年前朝鮮使節団として来日以来、宗矩とは旧知の間柄だ。 同席した宗矩の息子十兵衛は当時20才。 十兵衛の剣技はすでに超絶の域に達していた。 その場で朝鮮の怪異な仮面を被ってみた十兵衛に異変が。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 柳生十兵衛の奇怪な物語を両端に、新陰流・大和柳生家における剣技と妖術を駆使した暗闘の物語全5編。 陰陽師まで登場させ、どの話もその設定の奇想、おどろおどろしさに、読む者まで妖術にかけられたかのような気分になる。 しかし、最近の時代小説としは文章が硬い感じで、それゆえ本来の時代物・剣豪ものの雰囲気は味わえるものの、少々読みづらく、せっかくのスピード感も滞りがち。 これは読む方の技量不足かな。



[あらすじ]

 時は2008年。 刑務所の平均収容率は110%を超え、一部では130%に達していた。 警察OBの花菱城一郎は刑務所過剰収容対策委員会のメンバー。 ホテルで行きずりの女に頭を殴られてから、過剰収容解決のアイデアとして刑務所の民間経営が頭に閃く。 犯罪被害者たちにも誘拐され脅された彼は、民間刑務所設立に向け強引に策を進めていく。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 極端なエログロナンセンスに加え、首相からあの世・地獄の世界まで徹底的におちょくってしまう戸梶パワー全開の作品。 主人公が刑務所を民営化し、自ら初代所長となってやりたい放題、そりゃ地獄に堕ちるわなぁ。 終始暴走状態の話だが、その分物語性には欠ける。 単なるバカ騒ぎの1冊とも思えるし、悪の笑いをのりのりで楽しめるかがポイント。 本作りが凝っているのも作者の他の本と同様だが、こいつはその点でもかなり凄い。



[あらすじ]

 北上梁一は大スター花村陣四郎のマネージャー。 初秋の雨の晩、新宿の裏街のバーで安酒を飲んでいた彼の向かいの椅子に突然若い女が座った。 待ち合わせだと言う女はしばらくして眠りに落ちてしまい、梁一はその寝顔を見て女優としての可能性を感じていた。 誘いをかける彼女を乗せ車を駐めた横浜港の埠頭で、突然女の兄と名乗る男が現れる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 2人の男と1人の女。 スターとマネージャー。 芸能界を舞台に、この3人のたかだか1年半ほどの、流れ星のようなきらめきとその消滅が描かれる。 虚実織り交ぜた独白調が少々読みづらいものの、あっと驚くどんでん返しも途中で披露され、さらに小さなどんでん返し・立場の逆転が鮮やかに連発され、ミステリー紛いの面白さも併せ持っている。 終盤の展開も見事だが、派手な世界の終わりらしく静かな幕切れがいい。



[あらすじ]

 25才の横山健司は会社社長。 といっても社員はひとり、商売は出会い系パーティー屋で時には美人局もやるケチな男。 今夜のパーティーに旧財閥系の三田物産に勤める三田総一郎と言う男が来た。 すわ三田グループの御曹司かと早速女をあてがい、知り合いのヤクザに頼んで女が妊娠したと偽り脅すことに。 ところがこいつの家はちんけな町工場だった。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 軽快な犯罪コメディ。 もう少し読みたかったと思うほど短い物語だが、巻頭から走りっぱなしで、ラストまで息も切らさず、存分に楽しませてくれる。 ヤクザから詐欺師、中国人ギャングまで10億円を巡る複雑な人間関係が見事に整理され、次々に局面が変わる展開も実にスマートに描き切っている。 女1人に男2人というありふれた主人公らの関係も深すぎず浅すぎず、嫌みがない。 すべてに程良くまとまった面白本です。



[あらすじ]

 1987年、ロスアンジェルス。 学校建設に絡む不正隠蔽のため、ディーとシェイの母娘は警官を殺すことに。 ジョン・ヴィクター・サリー保安官補。 車の故障を装ってシェイにおびき出された彼はディーに撃たれる。 一命を取りとめた彼を待っていたのは麻薬に絡む罠。 警察を辞め、姿を消した彼のもとに、11年後、事件について情報を持っているという電話が。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 前作
「神は銃弾」が印象深かった作者の第2弾。 言葉そのものを重視し、力を込めた文体であるのは十分に分かるが、読んで心を突き動かされる人と、疲れて投げ出す人の両極端に分かれる作品という印象。 前作以上に強引なストーリー運びで、私には話についていくのも疲れる感じでした。 会話にしてももう少し自然な言葉で表現できないものか。 終盤の銃撃シーンは激烈な表現手法で迫力はあるが、全体に硬い。


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