◎98年7月



[あらすじ]

 父親の法律事務所に弁護士として勤めていたピーター・ヘイルは、つまらないミスで大事な訴訟を台無しにしてしまう。 日頃の怠惰で自己中心的な生活ぶりからとうとう父親に愛想を尽かされ、片田舎の小さな法律事務所行きを命ぜられる。 その町で大学の同窓生スティーブに会う。 やがて殺人事件が起き、スティーブの婚約者の弟で知的障害者のゲイリーが逮捕される。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 作者お得意の弁護士もの。
「黒い薔薇」同様最初から最後まで読者を楽しませてくれる。 あっと驚く展開も用意され、法廷ものながら肩の凝らないノンストップ娯楽作に徹している。 とはいえ今回は不満も多い。 警察がゲーリーを犯人と特定する根拠が乏しく、知的障害者に対する偏見が感じられるし、相変わらず法廷シーンの迫力がいまいち。 弁護士失格の烙印を押された主人公が成長していく様も甘い。



[あらすじ]

 新聞記者の自見弥一は社長の自伝担当者として社屋片隅の倉庫にこもり、酒を飲みながら柱を伝わる地下鉄の音などを聞く毎日を送っていた。 ある日社長の奥さんから頼まれた調査事がきっかけで、不可思議な病気が世界に蔓延している可能性に行き当たり、社内にプロジェクトチームを作ることを許可され調査を始める。 やがてチームの1人が何者かにひき逃げされる。

[採点] ☆☆★

[寸評]

 第1回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。しかし受賞作だからといって素直には頷けません。 とにかくメインになるクライシスが「あくびがよく出て簡単な引き算ができなくなる奇病」なのだそうで、これでわくわくしろっての? 後半事件が大きく動いてテンポが良くなるが、応募規定の字数の関係でしょうか、説明不足やご都合主義の展開も目につく。 世界中を巻き込む事件のスケールの大きさがさっぱり感じられませんでした。



[あらすじ]

 弁護士の栖本はある日地下鉄の階段で、5年前自分の前から突然姿を消した女、小林瞭子に偶然出会う。 栖本は彼女が消えた後妻子とも別れていた。 しかし瞭子は急いでいると言って立ち去る。 翌日、刑事の訪問を受けた栖本は瞭子が昨晩殺されたことを知る。 そして栖本の留守電には、相談したいことがあるとの彼女の伝言が残されていた。 栖本は仕事を放り出し真相を追う。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 正統派ハードボイルド。 非常にいい雰囲気の作品で人物描写もセリフ回しもいい。 後半は緊迫感のある場面が随所にある。 しかし全体に少し長く、終盤主人公が肝心の謎の真相を掴むまでが行きつ戻りつ、二転三転、じれったいほどになかなか核心に至らず、ページをめくる手が滞りがちになってしまうほど。 あっさりしすぎるのも困るけど、もう少しシンプルに描けないものか。 もっと上手く書ける作家だと思うので厳しく辛い採点。



[あらすじ]

 ミステリー作家のマーティは、妻と2人の娘と平和に暮らしていた。 ある日、南カリフォルニアの自宅で仕事中に突然7分間も記憶が途切れ、凍りつくような恐怖を感じる。 一方アメリカ中西部カンザスシティで、男はいつもどおり与えられた殺しの任務を終えた。 しかし任務遂行後の手順を無視し、抗えぬパワーに導かれ、自分の人生を求めてひたすら車を南カリフォルニアへ走らせる。

[採点] ☆☆☆☆★

[寸評]

 面白い。 ページをめくるのももどかしくなるようなスリルとサスペンス、そしてハードなアクションが連続する。 しかしこの作品はそんな派手な面白さばかりではない。 マーティ一家の愛情に満ちた姿は感動的だし、一方、感情など持たないはずの殺人者の自分の人生を求め苦悩する姿には哀愁すら感じさせる。 読者の想像を駆り立てるような緩急自在の巧みな話の運びはさすがプロの仕事。 サービス精神旺盛な面白本です。



[あらすじ]

 東京オリンピックの翌年、環境問題が注目され始めた頃の東京。 江東区の蠅の異常発生と異臭騒ぎを取材していた記者の松原は、荒川の河川敷で男の腐乱死体を発見する。 その死体のそばに怪しげな倉庫を持つ会社を調べ始めた松原は、大型トラックに追われたり、何者かに暴行を受けるが、執拗に食い下がり徐々に核心に迫っていく。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 なかなか拾いものの面白さでした。 2部構成で、第1部が東京、第2部は北海道が舞台。 主な登場人物もがらりと変わるし、第1部の終わり方があっけなくて、せっかくの盛り上がりが途切れるのは少々疑問。 しかし、1、2部ともそこそこスリルがあり、特に第2部後半のたたみかける展開、臨場感あるアクションはなかなかのもの。 事件の核心も面白いが、何件もの殺人を重ねるほどのものですかねぇ。


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