[寸評]
仕事に悩み恋に悩む4人の青年男女を主人公に、彼らの周囲で起こる事件を描く8編の連作ミステリー。
いずれも爽やかな青春ミステリーとして気楽に楽しめる。
しかしどの物語にも殺人事件や傷害事件を絡めるのはいかがなものか。
なにも血腥い事件を入れないとミステリーにならないということもないだろうに。
4人の描き方は浅く、どの短編もラストを"きめよう"という作者の言葉選びが気になった。
[寸評]
夏はやはり怪談話というわけで、本作は怖さの点ではさほどでもないが、中身の濃い短編集になっている。
時代物もお得意の作者ゆえ、特有の語り口も小気味よく、不思議な噺にどっぷりと浸れる。
全9編どれも面白いが、中でも、鬼と共に生きてきたという義母に仕える嫁が語る「安達家の鬼」、母親が死に天涯孤独になった少年が奉公先の座敷の唐紙に女の生首を見る「女の首」などは秀逸。
単なる怪談ではなく、人情話としても味わい深いあたりさすが。
[寸評]
何の気負いも感じられない真っ正直な青春小説。
物語もかなりの起伏があって面白く、杉原と桜井のカップルが初々しく純粋にいい雰囲気。
杉原も彼の友人たちもけっして"良い子"ではなく、どちらかと言うと相当の"ワル"なのだが、精一杯生きようという気持ちが感じられる。
「在日」に対する根深い差別はもちろん描かれるのだが、朝鮮人も韓国人も日本人もない、皆同じ人間なのだという杉原の叫びはとても自然で心を打つ。
[寸評]
40数年にわたる波瀾万丈のミステリー大河ドラマ。
正義感に満ちた初代署長に続き、第2部では戦争で暴力の狂気をまとったままの悪役の署長を登場させ、第3部ではついに黒人署長という実にドラマチックな展開。
第1部で登場した人々のその後の流れが少々つくりすぎの感もあるが、娯楽小説なのだからかえって楽しめる。
実在の人物を巧みに織り交ぜ、アメリカの社会情勢の変遷もしっかりと見据えた骨の太い作品で、かつ面白さも満点。
[寸評]
冒険小説の巨匠がなんと初めて直木賞を受けた作品。
最近やや低調気味だった作者だが、原点に帰ったようなこの物語には、久々にどろどろした人間の欲望のぶつかり合いが生々しく感じられる。
不条理にあっけなく人間が死んでいく様は彼の独壇場。
一方少年を主人公に据えたことで瑞々しさも感じさせ、やや青臭いラストも素直に受け入れられた感じ。
船戸の作品群の入門編のような作品。
[あらすじ]
陽介、歌義、綾、まり恵の4人は中学時代の新聞部の仲間で、卒業から9年を経てもつき合いが続いていた。
今日は当時の部の顧問で今は教師を辞め作家となった浅間寺に誘われ、彼の京都北山のログハウスに向かっていた。
途中山道で脱輪していた元テニスプロの川村夫妻を助け、浅間寺のもとで彼らと共に大いに盛り上がる。
しかし後日2人が心中したことを知る。
[採点] ☆☆☆
[あらすじ]
江戸時代。
14才の銀次は木綿問屋に奉公にあがる。
やがて店の跡取り藤一郎に縁談が起こり話は順調に進む。
ところが藤一郎に女がいたことが判明、あろうことか相手は女中のおはるで、赤子まで腹にいる。
藤一郎にはおはるを嫁にする気はなく、遠方で子を産ませ二度と敷居は跨がせないことに。
しかし銀次は藤一郎からおはるへの遣いを頼まれる。
「居眠り心中」。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
両親共に在日朝鮮人の杉原は中学時代に韓国籍に変わり朝鮮学校を出て日本の高校に通っている。
オヤジは元プロボクサーでパチンコの景品交換所を営んでいる。
喧嘩に強いことで有名な彼には、学校内で仕掛けてくる者も多いが負けたことはない。
ある夜、友人の誕生パーティーで桜井という力強い視線の女の子と知り合い杉原は彼女に夢中になる。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
1919年の大晦日、アメリカ南部の町デラノでウィル・ヘンリーは、町で初めての警察署長となる。
試行錯誤を繰り返しながら何とか上手く仕事をこなしていた。
彼は黒人も白人と分け隔てなく扱ったが、当時の南部は公然と人種差別が行われており彼を非難する者もいた。
やがて森で全裸の少年の死体が発見される。
監禁され暴行を受けていたようだが、身元も分からない。
[採点] ☆☆☆☆★
[あらすじ]
フィリピン、セブ島のガルソボンガに祖父と住む13才のトシオ・マナハンはジャピーノと呼ばれている。
日本人の父は母が妊るとすぐ日本へ戻り、母はトシオが3才の時死んだ。
地区にはもうすぐ日本人画家と結婚したクイーンと呼ばれる女が21年ぶりに一時帰国することになっており、そのための家と道路が建造中だ。
地区首長選挙も近く地域は不穏な空気に包まれていた。
[採点] ☆☆☆☆
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