[寸評]
飲食店等の内装工事会社を舞台に、社長以下社員の中から一話一人ずつを主人公に据えた8短編から成る。
作者の過去の作品の中では「凸凹デイズ」に近い。
中堅企業の少々無気力、また少々元気が良すぎる社員たちの巻き起こす軽い騒動が、ほんのちょっと現実離れ、枠を少しはみ出すくらいの程好い加減のほんわかコメディーに仕上がっている。
読後、ほんの少し仕事に職場に前向きになれるような、そんな物語。
[寸評]
まずは旧ソ連体制化の管理・抑圧された社会、不安と疑心暗鬼に満ちた民衆の姿が衝撃的だ。
さすが、現在の開放されたロシアにおいてなお発禁とされたというのも頷ける。
また、サスペンスフルな娯楽小説としても一級品だ。
主人公が八方敵ばかりという状況の中、潜伏しながら大量猟奇殺人犯を追う中盤以降は、一気読みの面白さ。
妻との心の結びつきの過程もいいが、肉親との邂逅、やや甘いラストが私の不満点。
[寸評]
実在した陸軍中野学校の設定を使った珍しい日本の軍事スパイ小説で、短編5編からなる。
第1話では学生たちが堂々と天皇制について議論するような、帝国軍隊の中の異端児集団の物語は、期待度満点。
その期待に応える緊張感に満ちた騙しのゲーム、ピリッとした話が多いが、平凡なミステリという印象のものもあるのは残念。
ぜひ次作を、例えば敵国の市井で長期間潜伏するスパイの話などお願いしたいところ。
[寸評]
「停電の夜に」でピューリッツァー賞を受賞し、世界的に有名な作者の最新中短編集。
謎や冒険、派手な趣向の本ばかり読んでいるので、こういった日常の淡々とした描写、明確な結末の存在しない本には面食らいました。
しかし読んでいくにつれ、目先で驚かせて読み進めさせる本とは異なる、奥行きのある世界が見えてくる。
とりわけ連作「ヘーマとカウシク」の、2人の30年を3短編で鮮やかに描く素晴らしさは特筆もの。
[寸評]
かなり大掛かりなコンゲームもの。
作者らしい騙しのテクニックが冴え、序盤に続く小さなエピソードはなかなか面白い。
ただ登場人物たちの引きずっている過去がやたらに重い。
重すぎる。
徹底的にコンゲームの面白さで魅せればいいのに、過去を背負った動機、決意、家族といったものが、物語全体の軽快さを損なっている。
終盤の大技も、よく練ったものだと感心はするが、個人的には爽快感が欲しかったところ。
[あらすじ]
ココスペースは、店舗や商業施設のリニューアルを請け負う東京の会社。
高柳は営業部のチーフ、一般にいうところの係長だ。
9時からの部課長会議に出す資料を作るため、昨夜の酒が残る体で7時過ぎに会社に着いた。
そんなところに3年前工事を請け負ったフランス料理店から、水漏れで厨房が水浸しとの電話。
施工監理部の部屋へ向かうとよくチームを組む篠崎がいた。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
1953年、スターリン体制化のソ連。
レオは国家保安省の捜査官。
共産党の敵を取り締まるのが本来の仕事だが、部下のフョードルの4歳の息子が列車に轢かれた死体で発見された。
息子は殺されたと触れ回るフョードルら家族の根拠のない推測をレオは無理に封じ込める。
ところがこの件を片付けている間に、監視中の容疑者に逃げられてしまう。
レオは部下と北の村に向かう。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
昭和12年、かつてスパイとして活躍した結城中佐の発案で、陸軍にスパイ養成学校設立準備室が設けられ、参謀本部の佐久間中尉は出向を命じられる。
その学校の第一期生が選抜試験を受けるところから佐久間は立ち合ってきた。
彼らはまさに化け物だった。
ありとあらゆる技術、学問、肉体的・精神的要求に応えていく。
彼らを待っているのは、長期間の孤独と不安なのだ。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
父は、母を亡くしてから、長年勤めた製薬会社を辞め、ヨーロッパを旅して回るようになった。
その父から手紙が来て、プラハへ旅行する前に一週間ほど娘夫婦の家に来たいという。
娘のルーマは、シアトルの東端の新居で、夫のアダムともうすぐ幼稚園の息子アカーシュと住んでいる。
アダムはちょうど出張だ。
今までは何もしない父だったが、園芸と孫の世話を進んで始めた。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
武沢は銀行から金を引き出して出てきたばかりの男に銀行検査官と称して声をかけ、偽札の疑いがあるので調べさせてくれと告げる。
男は怪しむが、そこに支店長補佐の名札を付けた仲間のテツさんが割り込み、男を信用させ、確認してくると言って金を受け取り、まんまと詐取。
そんな二人が帰宅すると、住んでいるアパートの部屋から黒い煙と消防車が見え、武沢は逃げ出す。
[採点] ☆☆☆★
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