[寸評] 刑務所が舞台の五編の連作短編集。 主役は囚人ではなく刑務官。 いずれの話も横山秀夫の警察小説を思い起こすような、張り詰めた緊張感を感じさせる。 それぞれミステリーとして上手に着地させているが、とりわけ最終話にはまいった。 倒叙もののようなひねりがひとつ入った後で、前四編にも関連した大きな衝撃が加えられる。 勘のいい読者なら途中で気づいたかもしれないが、私は完全に騙されました。 読後感も良く、濃い人間ドラマとして見事な作品。
[寸評] 抑えた簡潔な筆致で綴られる時代小説の佳品。 巻頭、いきなり息子が亡くなってしまい、嫁を実家へ戻し、小者に暇を出してひとり暮らしとなる主人公の姿が、動き少なく静かに描かれていくが、退屈さはまったくない。 話は中盤から大きく動き、図らずも藩の政争に巻き込まれ、終盤には緊迫感に満ちた激しい剣劇場面も用意されている。 登場人物はいずれも個性豊か。 言葉少なに交わされる主人公と嫁の志穂との抑えに抑えた心の交流が胸に沁みる。
[寸評] 戦後の一時期に存在した大阪市警視庁の刑事を主人公とした警察小説で、複雑な警察組織が興味深い。 中卒の新米刑事が帝大出の国警の警部補と組んでのコンビが、連続殺人事件の謎を追う。 全体として猥雑とした戦後混乱期の市井の雰囲気が良く出ているリアルな作品と思うが、推理ものとしてはちょっとごちゃごちゃした感じ。 大藪春彦賞を受賞。 直木賞は候補まで。 入り組んだ人物相関で、登場人物の一覧表が欲しかったな。 採点はちょっと辛め。
[寸評] 前作「刀と傘 明治京洛推理帖」に続いて尾張藩の公用人・鹿野師光が事件の謎に挑む時代本格推理長編。 時代は少し遡って幕末が舞台、ちょうど前作の前日譚になっている。 坂本龍馬に頼まれて鹿野師光が消えた下手人を探すのだが、足を使って様々な場所を探り徐々に核心に近付いていく様子が丹念に描かれる。 実在の人物を多数登場させ、時代の空気感も表現されている。 人物が錯綜して混乱しかけたが最後まで面白く読み切った感じ。
[寸評]
山火事との闘いに、不審な男との遭遇、そしてその妻とみられる瀕死の女性を救助したことによるサスペンスが加わったサバイバル冒険小説。
静かな湖、川の急流下り、釣りなど大自然の中での旅の描写が豊かで清々しく美しい。
一方、山火事の描写はかなりの迫力で自然の猛威のすさまじさを見せつける。
人間同士のトラブルはひねりはないが、驚きのラストまで緊張感を保った展開が続く。
銃社会の怖さも見せた。
エドガー賞の候補にもなった作品。
[導入部]
ダートマス大学に通う親友同士のウィンとジャックの二人は、カナダ北東部をカヌーで湖を巡り川を下る旅をしていた。
昨日から二人は煙のにおいに気づいていた。
島に上陸して小山の頂上に着くと北西の方角、はるか彼方にオレンジ色の光が見えた。
山火事は想像以上に大きい。
彼らの今のペースだと、近くのウォパハク村まで少なくとも二週間はかかる。
山火事を目撃して三日目、霧の中で男女の争う声を聞く。
[採点] ☆☆☆★
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