◎15年2月


土漠の花の表紙画像

[あらすじ]

 アフリカのジプチ。 ソマリアの海賊に対処するため各国の基地が設けられ、日本の自衛隊も駐屯していた。 墜落ヘリの捜索救助のため、自衛隊は12名の部隊を編成し、ソマリアとの国境付近へ向かう。 岩壁に宙づり状態のヘリを発見し、翌朝からの作業のため野営中、3人の女が助けを求めて駆け込んできた。 ソマリアの氏族長の娘で、敵対する氏族に追われているという。 その時、四方から銃声が轟いた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 実際に起こりうる危機を題材にした戦闘冒険アクション巨編。 全員の殲滅を目的に、兵員、物量とも圧倒的に上回り、執拗に追いすがる敵氏族に対し、実戦経験もなく武器にも乏しい自衛隊が、犠牲を払いながら反撃を試みつつ土漠を逃走する。 これに部隊内での軋轢や疑心暗鬼も加わり、サスペンスの度合いも増え、冒頭からラストまで死闘の連続で、ぐいぐい押しまくる壮絶な物語。 昨年中に読んでいれば「私のBEST」が一冊増えていたでしょう。


ブルースの表紙画像

[あらすじ]

 柏木牧子は道東、釧路の自宅の敷地内に人形教室のアトリエを持つ。 夫は親が遺した映画館や飲食店を経営していたが、事業を徐々に縮小していき、ついには会社をたたんで、今は子どものない夫婦の身軽な日々。 牧子は、今も自分の体の内に残る最初の男のことを思い出す。 中学の頃、泥水に流されそうな”下の町”の貧乏長屋に住んでいた同学年の影山博人。 彼の手には指が六本あった。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 30ページ程度の8短編。 作者には珍しく男を主人公に据え、さしずめ副題を付けるなら”影山博人と8人の女”といったところか。 北国の地方市の裏社会を牛耳るアウトローの、中学生時代から死ぬまでに、男と体を重ねた女たちの漂うような、また刹那的な生き方が綴られていく。 作者の描き方としては、以前の哀しさ前面の語りから、8作通してのトーンとして毅然と前を向く女たちの姿が見えてくる。 やはり本当の主人公は博人ではなく女たちか。


水やりはいつも深夜だけどの表紙画像

[あらすじ]

 私は五歳の幼稚園児がいる三十歳の母親。 いまだに中学生の時に自分の身に起きたいじめの出来事を上手く整理できておらず、女の集団はとにかく苦手だ。 嫌われないように立ち向かうといつも心に誓ってはいるが。 スーパーに行くときも幼稚園のママたちのいるところは避ける。 一方、ブログに毎日の食事や自分の服、子どもの様子をアップし、女たちに好かれる自分を演じている。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 夫婦、親子、また母親として、父親として、子どもとして、さらには社会への適応といった関係性に悩む主人公を描く短編5編からなる。 日常のほんの些細なことが亀裂を深めていく様子がリアルに上手く表現されており、共感できるところも多い。 胃がキリキリするような悩み、自己嫌悪に押しつぶされそうになりながら、何とか前を向こうとする主人公らの姿にはホッとさせられるし、いずれも柔らかな優しいラストが救われる感じで印象に残る作品群だ。


小さな異邦人の表紙画像

[あらすじ]

 柳沢家では高校2年から4歳まで8人の子どもがいるが、父親は事故で亡くなり、母親が昼間はパート、夜は池袋のクラブで働いて8人を育てている。 そんな柳沢家に電話が。 子どもの命を預かっており、明日までに3000万円の身代金を要求してきた。 しかし長女の一代以外はそのとき全員家に居り、一代もすぐに帰宅した。 一家はただのいたずらと笑い飛ばすが、翌日また誘拐犯から電話が。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 2000年代に「オール讀物」誌に掲載された8短編を集めた。 連城作品らしく男女の愛憎を軸とした叙情的なミステリが主体で、冒頭数ページで物語の世界に引き込まれる、緻密に組み上げられた見事な作品ばかり。 いずれも甲乙付けがたい作品群だが、しいて挙げれば、表題作よりも、交換殺人をテーマとした「蘭が枯れるまで」、幻想的な「冬薔薇」、学校でのいじめの真相が思わぬ方向に導く「白雨」、謎めいた「さい涯てまで」の4作にとりわけ感心。


家族シアターの表紙画像

[あらすじ]

 ひとつ上の姉の結婚式。 披露宴会場の席には妹の自分あての手紙が置かれており、最初の一行で衝撃を受けてしまった。 姉は真面目な子、裏を返せばイケてない、ブスだった。 小学校も中学校も地元の公立に通った年子の私たちは、同じ学校の中で常にお互いの姿を見かけることとなった。 中2で学校の勉強や習い事に早々に見切りを付け、姉を反面教師に、容姿に磨きをかけることを決意する。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 親子、姉妹、夫婦、舅・姑など、さまざまな家族の関係とそこから生まれる軋轢や問題を描く15〜50ページ程度の短編7編で構成。 いずれも日常の些細な出来事や事件を上手く切り取って面白く描くとともに、最後は主人公が前を向ける、心が温かくなる、新しい風が吹くような気持ちの良い締め方になっている。 中でも、祖父と孫、孫に降りかかる苦難を描く「孫と誕生会」、短いが家族の愛情が伝わる「タマシイム・マシンの永遠」が印象に残った。


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