[寸評]
映画監督でもある著者の二冊目の小説。 小学生の交通事故死を真ん中に、被害者側、加害者側の家族など関係者が語り手となる5編の連作短編から成る。 全体に静かで淡々とした語り口調で特別ドラマチックな書き方でもないのだが、素直な文体にツボをつく描写で気持ちや情景がすんなり心に入ってくる感じ。 5編目は前4編と全くスタイルが変わり戸惑うが、最後はまさにタイトル通り、一瞬の雲の切れ間に一条の光が差した気持ちになった。
[寸評]
新聞社の社会部記者が、記事掲載の最後の最後で大失態を演じた七年前と同様の事件が起きたことから、その関連性を疑い、執念を持って事件を追いかける姿が描かれる。 警察や関係者への執拗な取材、他社との駆け引き、社内の軋轢など、各場面における激しい闘いが熱く描かれる。 横山秀夫を彷彿させるサスペンスたっぷりな物語。 事件そのものは終盤に急転直下だが、事件よりも記者を描いた作品なので特に気にはならなかった。
[寸評]
武田信玄と上杉謙信による五次にわたる川中島の戦いを中心に、北信濃周辺における戦国期の動乱が、その地の有力名主である国人の須田光親を主人公に描かれる。 戦の場面は臨場感がありなかなかの迫力ある描写だが、史実を追ってめまぐるしく各地の城が落とし落とされていく記述がとにかく多いのが特徴で、主人公など人物の描き方がやや浅くなってしまった印象。 先の見えない戦いの日々を生きた戦国武者の物語として面白い。
[寸評]
知らぬ者ないスーパー絵師、葛飾北斎の娘の、幼少の頃から、父の死後も、葛飾應爲の画号を持って絵に打ち込む人生が描かれる。 絵師としての父に心酔し、夫の絵を鼻で嗤いさっさと離縁してしまうような真っ直ぐな性格のお栄の、絵を描くこと、絵を追求することへの熱情が全編に感じられる物語。 お栄の若い頃から北斎工房に出入りしていた絵師の善次郎が、お栄の人生における良いアクセントとして随所に登場するのも上手い演出だ。
[寸評]
アメリカ探偵作家クラブの最優秀新人賞受賞作。 アメリカ北東部の田舎町の山で、雪解けにより若い男の死体が現れたところからミステリは始まる。 デビュー作ということで、作者が持てる知力をすべて注ぎ込んだ感じで、物語の主筋でない枝葉というか横道のような記述が多い。 また登場人物も多く、それが整理できていない印象で、全体にすっきりしない。 それでも中盤はテンポ良く話が展開して、ミステリとしての面白さはしっかり感じられた。