◎12年6月


起終点駅の表紙画像

[あらすじ]

 函館の外人墓地で竹原基樹の納骨式に立ち会ったのは角田吾朗と笹野真理子だけ。 真理子は化粧品会社で国内最大手の華清堂の東京地区統括部長。 その真理子が二十八のとき、華清堂の幹部を約束された男・竹原と深い仲になった。 しかし竹原は翌年突然会社を辞め、東京を引き払った。 真理子は人事部に手を回し、竹原の函館の住所を突き止める。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 小学館の文庫判の小説雑誌「STORY BOX」に掲載された6話を集めた短編集。 もともといずれも「無縁」という題がつけられていた作品群だが、その題名がすべてを表している。 か細い糸で結ばれているのか、いつ切れたのかも分からない人と人とのつながりの物語。 いずれの物語も安易なハッピーエンドを許さない厳しさがあるが、重苦しさよりも潔さを感じさせる。 ただ、カバーの絵柄と中身がまるで異なる装丁は疑問でした。


ホーンズの表紙画像

[あらすじ]

 イグは昨夜、酔っ払って古い鋳物工場の奥にあるメリンが殺された森に足を運び、追悼の十字架を踏みつけ聖母マリア像に小便をひっかけた。 翌朝、頭痛とともに目覚めてすぐ、こめかみに手をやると、左右どちらにも尖ったものが突き出ている感触があった。 頭に角が生えていたのだ。 恋人だったメリンは1年前に何者かに殺され、イグが今も疑われていた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 700ページを超える長尺の5章構成のうち、冒頭の「地獄」という章は単独の中編としてみてもとにかく素晴らしい。 カフカの「変身」紛いの冒頭はともかく、イグに対した家族や神父が角の作用で秘めた本音をさらけ出す様子は、まさにイグにとって地獄の惨状。 続くノスタルジックな章「チェリーの木」もいいが、あとの460ページは、極上の恋愛劇を挟みながらも、ほぼホラー一直線でラストまで。 しかしそこはさすがに長い。 疲れました。


英雄はそこにいるの表紙画像

[あらすじ]

 「スナックはーです」に来る客の目当ては店主のナミの息子のナルヒコ。 恋や仕事に悩む女の子にナルヒコが近い未来を占ってやるとその通りになるという噂だ。 店にスーツ姿の男が来た。 穴見という警視庁の警部で、迷宮入り事件の再捜査を専門とする特命捜査対策室の室長。 重要未解決事件の捜査にナルヒコの霊能力を借りようと協力を求めてきた。

[採点] ☆☆★

[寸評]

 何とか最後まで読んだという感じ。 だいたい徹底的に捜査して結局迷宮入りした事件を、一瞥して手掛かりをどんどん霊視するなんて、あまりに安易すぎないか。 どんな未解決事件も、死者が教えてくれるんです、で話を進められてはたまらない、などといらつきながら読んでいたらこの採点になってしまった。 世界的な悪の組織・ブラックハウスという設定も時代錯誤で呆れてしまうし、セクハラ紛いの女性描写もあったりで、楽しめず。


霖雨の表紙画像

[あらすじ]

 天保四年(1833年)、北部九州の中央、天領の日田にある広瀬淡窓が主宰する私塾「咸宜園」に二人の入門希望者が訪れた。 元広島藩士の臼井佳一郎と姉の千世という。 広島藩医からの紹介状は佳一郎のものだけだったが淡窓はすぐさま二人の入門を許した。 その咸宜園には2年ほど前から西国郡代の塩谷からの不当な干渉、介入が続いていた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 良い物語だと素直に思うが、何となく教科書を読んだような気分。 5年ほどの期間の物語だが、この長さでは描ききれないか、不定要因を抱えたまま一挙に時を飛ばしてしまい、その話はとりあえず、みたいなところがいくつかあるのが気になった。 また物語の流れの鍵となる元広島藩士の臼井と嫂の千世、この二人、とりわけ千世の運命は少々残酷すぎたと感じた。 淡窓らの”清”に対比する者たちの描き方はありきたりの印象。


インサート・コイン(ズ)の表紙画像

[あらすじ]

 接世書房発行のゲーム誌「Press Start」の次号企画会議。 参加者は編集長とライターである俺・柵馬朋康、そして先輩ライターで俺の師匠でもある流川さんの3人。 編集長は即座に、スーパーマリオブラザーズ発売二十周年記念と述べ、異論はなかった。 ゲームにも出てくる動くキノコを探すということになり、ツチグリというキノコを求めて奥多摩へ向かう。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 光文社のミステリ雑誌「ジャーロ」掲載の短編5編。 登場する懐ゲーはスーパーマリオのほか、ぷよぷよ、ストU、ドラクエなどで、コラムスなんて名前も。 中では中学のクラスの中でちょっと浮いていた女子との恋とも呼べない交流を描いた感傷的な話が良かったが、オチはどこかで読んだような。 それぞれゲームを題材に個別の物語を組み立てているが、ゲームの個性が強すぎるので苦しい。 ちょっと期待(勝手な)が大きすぎたか。


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