◎04年4月



[あらすじ]

 ジェフは地下鉄駅で暴漢に襲われている女性を見つけ突進した。 男は逃げたが、女性はジェフを犯人と間違え、駆けつけた人々に彼は取り押さえられてしまう。 女性は歩行困難となり顔もひどい損傷を受けた。 ジェフの言い分は通らなかったが、しかし判決は1年以内の禁固刑という軽いものだった。 そして彼を乗せて刑務所に向かう車が交通事故に遭う。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 何層にも都市地下にトンネル状に張り巡らされた地下鉄駅間の線路や構築物といった真っ暗闇の大迷路で行われる死の逃亡ゲーム。 闇、そこに潜むネズミなどと共に、大地下に"住む"人々がリアルに描かれ、東京の地下もかくやと思わせる。 獲物を仕留め剥製にして飾る有力者クラブの狂気も適当な説得力をもって描かれ、単純だが、単なる荒唐無稽な作り物にしていないのはさすがホラーの大家。 恐怖とスリルに満ちた娯楽作。



[あらすじ]

 キャロラインの夫はジョギング中、何者かに殺される。 残されたのは2人の子供、ローリーとライアン。 アンティークショップの店員の給料ではとても子供を養えない。 そんな彼女の前にお金持ちの紳士トニーが現れ、結婚することに。 彼は高級アパートのロックウェルに住んでいた。 そこはいかめしく、かなり古い建物のため、幽霊屋敷のように噂されていた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 前週からジョン・ソールが続く。 内容はネタばれになるので詳しくは書けないが、題材がホラーの1大ジャンルを形成するようなありふれたものながら、巧みな話の運びで存分に楽しませ、怖がらせてくれる。 現代ニューヨークの中の伝説的ともいえる古い大アパートメントという環境設定も雰囲気を大いに盛り上げ、大人と子供の視点を巧みに織り交ぜて話は進む。 くすんだ妖館に潜む亡者たちの息づかいが耳に残るような見事な恐怖小説。



[あらすじ]

 私の名前は清。 高校の国語の講師をしている。 高校生の途中までバレーボール部のエースでキャプテン。 誰よりもバレーボールに打ち込み、国体にも出場したが、ある出来事でバレーボールから離れた。 この学校では当然バレー部の顧問になれるものと思っていたら、なんと文芸部の顧問を任された。 部活は図書室、部員はなんと3年生の男子1人だけ。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 タイトルから"こりゃ読まずにはいられまい"という気にさせられた。 出だしでショッキングな毒をまぶし躓いた印象だが、以後は爽やかさを感じさせる。 不倫相手については、女性作家だからこそここまでひどく描けたというほどヤなやつに仕立て、一方たったひとりの文芸部員、垣内君は、これ以上の好青年はないという描き分けが見事。 スポーツではなく"本"でこれだけ熱く青春できるんだというところを見せてくれて、嬉しくなりました。



[あらすじ]

 時は戦国の世。 南伊勢にある北畠家の庭園で当主の具教が立ち合っていたのは新陰流の流租である上泉伊勢守信綱。 隙だらけのような構えの信綱に鹿島新当流皆伝の具教はまったく歯が立たなかった。 信綱の人となりにも惹かれた具教は幾内随一の槍の使い手、宝蔵院の胤栄との立ち合いを勧める。 胤栄は十文字鎌槍という新しい槍を考案した男だった。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 驚いた。 この作品が作者のデビュー作とは。 土台のしっかりした印象の書きぶりで、戦国時代物らしい堅さもあるが、信綱の修業時代からの波瀾万丈の物語は実に面白い。 10代での三日三晩かけて20数人の刺客と戦う立切仕合や、20代に出会った移香斎という老兵法者に師事するあたり、引き込まれる面白さ。 そしてラストの、真剣と真槍との対決は文字でこれだけの迫力と臨場感を出せるものかと感心させられる名場面です。



[あらすじ]

 県警捜査第一課の検視官、倉石は終身検視官の異名を持ち、その眼力の鋭さは伝説化している。 その倉石の下で調査官心得をしている一ノ瀬は現場からのFAXに凍りつく。 若い女の首吊り死体が発見され検視官に臨場要請が来たが、その女は最近まで付き合っていて、こちらから無理矢理関係を切った。 もし他殺なら自分も容疑者にされる可能性が。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 死体が物語る人生の悲哀8編。  階級、組織のしがらみなどには委細構わぬ強烈なキャラクターの倉石は確かに魅力十分だが、意外と彼の登場場面は少ない。 人間の感情などというものは廃して事件の真相のみを射抜く態度は凄みを感じさせるが、話が後ろへ行くほど倉石の対応にも人間的なところが出てきて、せっかくのキャラが弱まった感じ。 40ページほどでまとめてしまうため、真相の特定など強引なところも随所に見られた。


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