◎00年9月



[あらすじ]

 ジェイク・パウェルはロンドンのカジノの支配人。 ある夜、店にマンチェスター警察のグリーン警部が訪ねてくる。 ジェイクに16年前の記憶が甦る。 17才の彼はマンチェスターで男娼をしながら仲間達と面白おかしく暮らしていたが、仲間の少年がある事件で殺されたのを機にマンチェスターを離れた。 最近、当時の仲間が同様の手口で殺される事件が起きたという。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 98年の
CWAシルバー・ダガー賞受賞作。 現在と16年前のジェイクのゲイだった頃の様子を交互に描いていく。 男に体を売って金を稼ぐ少年たちの生態が実に生き生きと、かつ生々しく描かれており、その点が高い評価を得たものと思われるが、個人的にはちょっと受けつけませんね。 ミステリーとしても罪の意識に苛まれるジェイクの姿をうまく引っ張り面白いが、犯人の描き方がやや浅い印象だった。



[あらすじ]

 最近新宿では高級車を狙った窃盗が急増していた。 新宿署の鮫島警部は海外輸出目的の自動車窃盗団の仕業と見て捜査を開始する。 窃取車両のナンバーを付け替えたり色を塗り直す"洗い場"を見つけるため、彼は単独で有蓋駐車場などを回る。 その頃、新宿を根城とする暴力団藤野組の真壁が中国人売春組織との抗争事件による懲役を終え新宿に戻ってきた。

[採点] ☆☆☆☆★

[寸評]

 
「新宿鮫」シリーズ第7作。 ノベルズの多いこのシリーズでは4作目の「無間人形」以来の単行本。 物語はシリーズ中でおそらく最も長く、一方、派手なアクションや事件が他の作品に比べ少な目だが、長さも単調さも感じない。 鮫島が犯罪を追う緊迫感もさることながら、出所したやくざと内縁の妻の切ない関係が実に泣かせるのだ。 そこにもう一枚古い事件を巧妙に絡ませているが、くさくならず、わざとらしくならず、ぎりぎりで踏みとどまった印象。 泣かせる人情犯罪ドラマ。


 《未読だった過去の傑作》

[あらすじ]

 マイアミ・ビーチ警察のヴィンセント・モーラ警部は強盗に撃たれプエルト・リコで療養休暇中。 アイリスという若い女と親しくなる。 一方、7年半前刑務所に送り込んだテディが出所し、彼にしつこくつきまとう。 アイリスはモーラに引き留められながらアメリカのカジノ・ホテルへホステスになるため向かい、2週間後にビルから不審な転落死を遂げる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 アメリカクライムノヴェルの巨匠の評価を決定付けた作品。 いかした男女が洒落た会話を交わしながら、活き活きと物語が進む犯罪小説で、都会的な雰囲気を楽しみながら暇がつぶせる娯楽作。 極上のエンタテインメントだが物語の深みとかには無縁。 謎や伏線、犯人探しなどは特に配慮されておらず、終盤も意外とあっさりしている。 全編先の読めない展開を気楽に楽しむことに徹した作品。



[あらすじ]

 中部地方の愛宕市で爆弾事件が相次ぐ。 警察は必死の捜査で犯人の緑川という男を突き止めその製造場所に乗り込むが、そこでは2人の男が格闘していた。 警察は結局緑川には逃げられ、共犯と思われる男を逮捕する。 しかしその男の戸籍は死んだ他人のもので、経歴もまったく不明だった。 精神科医の鷲谷真梨子が精神鑑定を行うことになる。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 第46回の江戸川乱歩賞受賞作。 作者はモダンアートのプロデューサー。 エキセントリックな主人公の「脳男」は怪しい雰囲気を充満させ期待十分で、序盤から中盤徐々にその正体が明かされていくあたりは面白い。 しかし、すこぶる優秀なはずの精神科女医による鑑定も緊張感に欠け、すこぶる強いはずの警察の茶屋警部とやらも強引さばかりが目立つ。 終盤の見せ場も尻すぼみ状態に。 "ミュータントの哀しみ"とでも改題した方がいいね。



[あらすじ]

 映画製作者の玉置優子は、妻を失った男の旅を描く「ポートレート24」という映画を企画する。 脚本を書いた20代の新人を監督に抜擢、彼を補佐する形で撮影監督にベテランの有村を据え、主演に人気男優の高見貴史を配した。 理想が先走る新人監督にいらだつ有村。 撮影が進むにつれ自信を失っていく監督。 共演女優にプライドを傷つけられる高見。 爆発の予感が。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 全5章から成る物語だが、読み始めてようやく気付いた。 これはミステリーじゃない。 女製作者、新人監督、撮影者、主演男優、共演女優。 映画製作に賭ける5人の男女のぶつかり合いが描かれていく。 自らの光を追い求める彼らの姿は、しかしこの作者にしては物足りない。 もっと貪欲に、もっと激しく、生々しく5人の叫びを執拗に描いて欲しかった。 そして最後の第5章「後日談」。 実際は後日談以外の話が中心で、個人的にはこの章の存在自体が疑問。


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▲ CWA賞
 イギリス推理作家協会賞。 最高賞はゴールド・ダガー賞(GD)。 シルバー・ダガー賞(SD)は次点にあたる。 当ページにある同賞受賞作は82年のGD賞「偽のデュー警部」、94年の新人賞「ビッグ・タウン」、 95年のSD賞「バースへの帰還」、96年のSD賞「猟犬クラブ」