[寸評]
化学物質の過剰摂取により痴呆化が進行した未来の人間社会を描いた表題作ほか、全10編のSF短編集。
いずれの作品も発想の斬新さには目を見張るものがある。
メモリ媒体に閉じ込められたダライ・ラマ十九世などという発想には驚き。
新奇さ、珍奇さは豊富にあり楽しめるが、どれも短編物語としての展開や構成の面白さには少々欠ける印象。
それにしても殺伐とした希望の無い未来図ばかりなのは気が滅入る。
[寸評]
ノスタルジーに溢れたと言えば聞こえはいいが、作者が自らと同年代の男を主人公に、若い頃見聞きした社会情勢や人間模様をお得意のロマンチシズムをまぶして物語に仕立てたという印象。
現れるべくして次々に現れる死者たちに意外性は無く、他者を思いやることがなかった主人公の咎ばかりが顕わにされ、死者も生者も救いのない話。
新味は無いが、設定と作者の技なら短編ならば好印象だったのではと思わせた。
[寸評]
作者の父・井上光晴の同名小説は読んでいないが、同じく結婚詐欺師を主人公としたこの物語はなかなか巧い。
長さは短いが、様々なエピソードを重ね、終盤は騙された側が逆に主人公へ近づいていくなど結構盛り上がる。
騙された女性がなお自分への愛だけは本物だったと叫ぶあたり、人間の弱さ、孤独など様々な感情の渦巻きが見える。
人間群像劇としても社会派サスペンスミステリとしてもかなり楽しめる作品でした。
[寸評]
大酒飲みばかりの家族の、常識では測れないはちゃめちゃな振る舞いが傑作だが、それだけのドタバタ喜劇ではない。
母親に捨てられ、たどり着いた父親の家で、とんでもない家族に囲まれながら育った少年時代を嫌悪しながら、心の奥底では永遠に愛着を感じ続ける主人公の語りがいい。
今の日本では遠くなりつつある、貧しくとも家族の情愛に満ちた物語でした。
ただし邦題の「残念」というのはちょっと違うような・・・。
[寸評]
日本陸軍内に設置された秘密諜報機関、通称”D機関”のスパイたちを描く短編集の3冊目で、短編3作と前後編に別れた中編1作の構成。
その冷たい雰囲気、緊張感、そして面白さは今回も十分味わえる。
短編3作はいずれも面白いが、とりわけD機関の帝王、結城中佐の生い立ちとおぼしき物語「追跡」が最も良い。
これに対し中編の作品は間延びして緊張感に欠けるし、真相も首を傾げるもので、総合で4つ星ならず。
[あらすじ]
トラビス・アルバレスはニューヨーク市の下水局に勤めている。
木曜日の朝、ライターを手に故障したガスオーブンに頭を突っ込み修理を試みているマギーと大喧嘩をしてからの出勤となった。
夏の芝生の上にはたくさんの鈍物(トログ)たちが寝ころび、人目も気にせず性行為に耽っている。
地下ポンプステーションに入ると同僚のチーが第六ポンプが昨夜から故障だと告げる。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
私は浅間山麓にある元保養所に使われていた大きな家に住んでいる。
その高原の家に黒雲が急速に近づいてきたとき、庭に女が蹲っているのを見つける。
雷雨に見舞われ迷い込んだのか。
梓と名のった女は、西の森に住むジョーンズ夫人が生者、死者に関わらず会いたい人に会わせてくれると言う。
まやかしの降霊術かと疑いながらも梓の誘いを受ける。
[採点] ☆☆☆
[あらすじ]
学習塾事務員の亜佐子は、カルチャーセンターのエッセイ教室で鳥海と出会った。
講習初日にエッセイを褒められ、出会ってから一月で結婚を申し込まれた。
宝石商の鳥海は全国を渡り歩いているが、携帯電話アレルギーの彼への連絡手段は常に留守番モードの自宅電話へメッセージを残すこと。
しかし九州に行ったはずの彼からぱったり連絡が途絶えた。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
ベルギーの小さな村、レートフェールデヘム村。
そこでぼくは父、祖母と三人の叔父たちと怠惰な日々を送っていた。
父たちはとんでもない飲んだくれで、金があれば酒場で飲み続け、なくなれば日雇い仕事に出る。
ある日、まれに見る美女のロージー叔母が暴力夫から逃れて娘とともに家に戻ってきた。
ぼくはいとこのシルヴィーをカフェに連れていくことに。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
気がついてから前のことが何も思い出せない。
頭を強く殴られたことによる記憶障害らしい。
持っていた旅券では自分は日本人留学生、島野亮祐。
1939年にマルセイユからフランスに入国しているようだ。
部屋の中には3人のフランス人男女。
彼らの話によれば自分はドイツ兵にたてついて3人に助け出されたという。
フランスはドイツの占領下にあった。
[採点] ☆☆☆★
ホームページへ 私の本棚(書名索引)へ 私の本棚(作者名索引)へ