◎13年4月


美しい家の表紙画像

[あらすじ]

 中谷は4年前に小説を書きそこそこ評判になったが、それからは小説は書けず、エッセイや書評などの雑文を書いてどうにか生活している。 離婚した元のかみさんに養育費も待ってもらっている状態だ。 頼まれた寄稿を書くのに煮詰まり、夜中に散歩しているとコンビニの前で20代前半の女が座り込んでビールを呷っていた。 家に帰るように言うと、トイレを貸してくれと勝手に仕事場までついてきた。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 子供の頃、スパイ養成学校に入れられていたと言う女。 随分意表を突いた冒頭で、いったいどういう話につながっていくのか、どう広げていくのかと期待したが、それなりにひねった展開になってはいくものの、じめっとしたあまり気持ちの良くない話になってしまった。 複雑な構成を巧みにつなげて最後まで読ませるが、”イエスの方舟”そのままの設定は工夫がなく、子供の絡んだ殺人、自殺といった題材もあまり読みたいものではなかった。


夜に生きるの表紙画像

[あらすじ]

 舞台は1920年代半ば、禁酒法時代のアメリカ。 ジョー・コグリンの父親はボストン市警の警視正。 しかしジョーは、ギャングの手下になって、パオロとディオンのバルトロ兄弟と組んで強盗を繰り返していた。 その日、ボスのライバルのギャングが経営するカジノに押し入ったが、そこで銃を向けられてもまるで動じない女に出会う。 強盗から4日後、ジョーはもぐりの酒場で酒をついでいる彼女を訪ねる。 

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 警察幹部の息子ながら腕一本でギャングの世界をのし上がっていく若者の、約10年間にわたる波瀾万丈の犯罪ドラマ。 「ゴッドファーザー」の一部を彷彿とさせるような非情な暗さとフロリダやキューバの降りそそぐ陽光が印象的で魅力的な大作である。 禁酒法制下、白人至上主義といったアメリカ社会の裏側も巧みに取り入れた歴史ものとしても興味深いが、なんといっても愛情と裏切りが渦巻く人間たちのドラマとして面白く、読み応え十分。


エンジェルフライトの表紙画像

[あらすじ]

 外国人や日本人の遺体を故国へ搬送する会社、エアハース・インターナショナル(株)。 国際霊柩送還を専門に2003年に日本で最初に設立された会社である。 海外で亡くなった日本人の遺体や遺骨を日本に搬送し、日本で亡くなった外国人の遺体などを祖国へ送り届けることを業務としている。 国により異なる膨大な書類手続、遺体の修復、エンバーミング(防腐処理)など繁雑で過酷な仕事だ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 国際的に遺体・遺骨の搬送を請け負う会社の実態、社員の姿、搬送される死者とその家族などを描くノンフィクション。 異国での死は事件や事故によるものが多いことから当然遺体の損傷は激しく、腐敗も進行しているわけで、その遺体を扱い、顔面を修復したりの作業は壮絶の極み。 ドキュメンタリーとしてある意味これ以上の題材はなく、実に興味深くまとめられているが、やや著者の思いが入り込みすぎて、もう少しドライな筆致が求められた。 


ハンサラン 愛する人びとの表紙画像

[あらすじ]

 在日朝鮮人の金江福は夫が勤めていた朝鮮総連の婦人会での人脈を生かして、30年ほど前から縁談を取り仕切る「お見合いおばさん」をしている。 今では評判が評判を呼び、辣腕で有名となり、80半ばの夫に代わり、縁談の紹介料や成功報酬で家計を支えている。 今日は、外資系投資銀行で働いている30歳の娘の見合い斡旋依頼に宮本夫人が来ていた。 福は大学病院の勤務医を紹介する。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 在日韓国・朝鮮人社会でお見合いを仕切っている「お見合いおばさん」を軸とした連作短編6編。 日本人社会よりも、また現代の韓国社会よりも濃いだろう、「在日」という社会における、家族、親族といったしがらみの中で生きる老若男女の姿がリアルだ。 恋愛、結婚など切実な問題の渦中で自らのアイデンティティに悩む若者たちが生き生きと描かれた好ましい作品。 個人的には、もう少しユーモアを交えたお見合い話の連作が良かったけどね。


何者の表紙画像

[あらすじ]

 今日は御山大学の学園祭の最終日。 拓人は、ルームシェアしている光太郎の学生バンド”OVERMUSIC”の引退ライブにやって来た。 ライブハウスには瑞月さんも来ていた。 拓人はジーパンのポケットから携帯を取り出し、癖のようにツイッターの画面を開く。 瑞月さんはコロラド州への留学から2日前に帰ってきたそうだ。 ライブの翌日、光太郎は就活を始めるため金髪から黒髪短髪にしていた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 23歳の今時の若者である作者らしく、登場人物は皆ツイッターのアカウントを持ち、しょっちゅうツイートしている。 5人の男女大学生の就活を描く物語で、残りの人生を決めるようなイベントでの彼らの悪戦苦闘、裏表さらけ出しての悲喜こもごもがリアルだ。 ツイートがこの物語の肝で、終盤にはある種のどんでん返しもあるが、ラスト近くの心の奥深くをえぐるような言葉の連射は読んでいてキツかった。 ここは今時の若者らしくないんじゃないの。


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