◎22年12月


このやさしき大地の表紙画像

[導入部]

 時は1932年。 12歳の少年オディ・オバニオンは4歳年長の兄・アルバートと共に、ミネソタ州にある先住民のための寄宿学校であるリンカーン教護院にいた。 二人の両親はすでに亡く、施設の中で唯一の白人だった。 オディは日頃から生意気な態度で、「黒い魔女」とあだ名される院長に目を付けられており、しばしば管理人のディマルコに鞭打ちされた上、かつて刑務所だった頃の独房の仕置き部屋に放り込まれた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 主人公が、兄、インディアンの親友、6歳の少女の4人で施設から逃げ出し、カヌーで川を下ってミズーリ州セントルイスを目指す。 ひと夏の少年たちの過酷な旅を描く冒険ロードノベル。 院長・警察の執拗な追跡、次々に襲う試練に4人が協力して立ち向かう物語はドラマチックで、移り変わる展開は読み応えがあり引き込まれた。 大恐慌の厳しい社会情勢にあって、道中、様々な局面で彼らに手を差し伸べる人が多いのも温かい。 締めもこれ以上ないほど感動的だ。


ロンドン・アイの謎の表紙画像

[導入部]

 テッドはロンドンに住む12歳の少年。 ある日、母の妹のグロリアおばさんが息子のサリムを連れてマンチェスターから訪ねてきた。 おばさんが美術館の仕事に就くためニューヨークに出発する前に、うちに泊まっていくのだ。 明日は学校の中間休みで、パパは仕事があるけれど、仕事を休むママと姉のカット、おばさん、サリムの5人で遊びに出かける。 サリムは巨大な観覧車“ロンドン・アイ”に乗りに行きたいと言う。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 人の気持ちを理解するのは苦手だが、難しいことを考えるのは得意な少年が人間消失の謎に挑む、YAもののミステリー。 テッドの語りで物語は進むが、それが微かなユーモアを感じさせるもので、生き生きとして爽やかな雰囲気。 謎を解明しようと奔走する活発な姉と見事な観察眼の弟の冒険コンビぶりも良い。 終盤のテッドの謎解きは論理的で、まったく見事なものだった。 青少年向けなのだが、一般作として大人が読んでも十二分に楽しめる本格推理作品。


レッドクローバーの表紙画像

[導入部]

 勝木は東都新聞を定年退職し、系列の出版社に嘱託として再就職した。 月間総合雑誌の記者兼編集者というポジション。 そんな彼に、豊洲バーベキュー事件の記事を書いてみないかと編集長から打診が。 豊洲のバーベキューガーデンでヒ素が混入した飲み物を飲んだ男女三人が死亡、四人が病院に搬送された。 容疑者はパーティーの発起人だった丸江田逸央。 丸江田は「ざまあみろって思ってます」と取調中に言ったという。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 北海道と東京で起きた毒殺事件の関係者・当事者らと、事件の謎を追う総合雑誌の記者の語りで綴られていく衝撃のミステリー。 登場人物たちが持つ毒をはらんだ絶望感、怒り、閉塞感が半端なく、負の連鎖が止まらない。 物語の途中から終盤まで徐々に明らかになっていく事件の謎に、衝撃の展開、驚きが続き、その疾走感にまさにページから目が離せない物語。 恐ろしく、不穏で、まったく救いのない話なのだが、いやでも惹き付けられてしまう力が感じられた。


嘘つきジェンガの表紙画像

[導入部]

 加賀耀太はまさかこんな2020年の春が待っているとは思わなかった。 東京の大学の入学式が飛び、授業もサークル活動も始められないキャンパスライフ。 耀太の両親は山形で定食屋を営んでいるが、緊急事態宣言が全国に拡大され、昨日から営業を休んでいる。 今月の仕送りが半額になる。 生活費はバイトで、と思っていたがそのバイトがない。 そんなとき、地元の幼馴染の奥田甲斐斗からオンラインのバイトに誘われる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 ロマンス詐欺、受験詐欺、サロン詐欺と、詐欺についての物語3編からなる。 あの手この手で騙すテクニックがいろいろ出てくる騙す側からの話だと思ったら、1、2編目は騙される側が主体。 それゆえ、なんだか辛く切ない面が出て、それでも最後は爽やかにまとめられていくのに救われた思い。 一方3編目は嘘をつく側の話なのだが、これもけっこう辛い。 嘘をつけばつくほどドツボにはまり、終盤は思わぬ展開となるが、後味はあまり良くなかったかな。


リバーの表紙画像

[導入部]

 群馬県警に110番通報が入ったのはゴールデンウィーク明け間もない5月8日、午後3時過ぎだった。 桐生市の渡良瀬川河川敷グラウンド近くの中州で、犬の散歩中の男性が若い女性の死体を発見したのだ。 全裸の変死体。 渡良瀬川河川敷では10年前、群馬と栃木で相次いで若い女性の死体が発見され、連続殺人事件として捜査されたが今も未解決になっている。 警察本部捜査一課の刑事、斎藤一馬警部補も現場に急行する。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 650ページ近い大部ながら、巻頭から幕切れまで間断なく緊迫感が持続する、読み応え十分の圧巻の犯罪小説。 登場人物は、複数の容疑者とそれぞれの関係者、10年前の事件も含めた警察関係者など非常に多いが、群像劇として大変巧く整理されていて、混乱することはない。 容疑者三人の造形も興味深いものだし、10年前の事件に関係した元刑事や被害者家族の犯人逮捕への執念がひしひしと伝わってくる。 最後は複雑なピースが上手に嵌まった感じで見事。


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