◎04年1月



[あらすじ]

 1954年、ボストン沖のシャッター島にある精神病院へ連邦保安官のテディとチャックがフェリーで向かっていた。 そこは精神を病んだ兇悪犯罪者の収容施設で、レイチェルという女囚患者が施設から逃げ出したのだ。 彼女は鍵のかかった部屋から誰にも見られずに逃げ出したという状況。 そしてその部屋には暗号のような不可思議なメッセージが残されていた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 
「ミスティック・リバー」など人間の昏い深淵を抉るようなミステリーが得意の作者が、まったく趣を異にした新境地とでも言うべき作品。 終盤70ページほどを袋とじにした体裁に、密室、暗号等を駆使した展開は本格ミステリーそのものだが、そこはルヘインの作品だけあって主人公の心の闇が鋭く描かれている。 叫び出したくなるような悲痛はやはり作者のものだ。 もちろん本格ものとしての仕掛けも、新味はないものの見事に決まっている。



[あらすじ]

 青山署生活安全課刑事の鳴沢は、高額配当を餌に多くの人間から出資を募る詐欺紛いのマルチ商法をしているという会社を追っていた。 匿名の情報提供者とも接触するが、起訴の決め手を模索しているような状態が続く。 そんな時、夫婦間の暴力の件で、アメリカ留学時代の友人の妹と出会う。 彼女も夫の暴力が原因で日本の祖母の家に身を寄せていた。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 
「雪虫」を第1作とする鳴沢刑事シリーズ第3作。 地道な捜査話で、ネズミ講にドメスティック・バイオレンスと事件そのものにも新味はないが、もう少し派手さがあってもいいと思うし、クライマックスの盛り上がりも小さめ。 全体に丁寧な話の運びで、破綻なく物語は進むので、安心して読み進められそこそこ楽しめるというところ。 真面目でお堅い鳴沢の恋愛話ももう少しふくらませて、書名のように羽目を外すところが欲しかったですね。



[あらすじ]

 自転車修理店から出発したハワードは、やがて発売間もない自動車の販売に乗り出し、1920年代には世界最大の自動車販売会社に成長させた。 35年には当時最も集客力のある娯楽となっていた競馬に目を向け、ロス近郊に厩舎を開く。 そして36年、ハワードと調教師のスミスは小さく脚も曲がってはいるがガッツを感じるシービスケットという馬を買い入れる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 世界恐慌時代にアメリカを最も湧かせた馬とその関係者たちを描くノンフィクション。 創作でもなかなかお目にかかれないような波瀾万丈の物語で、東部最強馬との夢のようなマッチレースは最大の山場。 ここに至るまでが長くてじりじりしたが、真実の強みというか、この対決は本当に感動的。 馬を語るときの文章には優しさが感じられ、一方レース場面は臨場感たっぷり。 なお、この本が原作の映画が日本でも今月下旬から公開される。



[あらすじ]

 八ヶ岳の麓で暮らす六田賢司、通称"ロッタ"は狩猟経験豊富で山を知り尽くした男だが、狩りをするのは冬場の3か月。 人付き合いが下手で、普段は飯場の土方仕事で日銭を稼いでいる。 妻の亜紀は結婚2年目。 口の利けない妻だが、優しくかつ意志が強い。 そんな彼のもとに新聞記者の兄から連絡が。 産廃不法投棄を調べていた兄の同僚が死んだのだ。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 壮絶な"狩り"の物語。 シンプルな設定で、これでもかと畳みかける死闘劇は迫力十分。 また、自然を愛する作者らしい山や動物などへの敬愛の念が感じられる本でもある。 しかしながら、「あとがき」からも作者の思い入れの度合いが伺えるが、それが強すぎたのか、ストーリーは序盤ですべてが予測できてしまうほど分かり易すぎるもの。 考えられない油断で陥る窮地やお定まりの警察不在など、小説としての設定や構成には不満も。



[あらすじ]

 バース署のピーター・ダイヤモンド警視は、今まで上手く刑を逃れてきた凶悪犯罪者カーペンター兄弟の長兄ジェイクを捕らえ終身刑の判決を勝ち取る。 その翌日、署の執務室にいた彼に殺人事件発生の報が。 いさんで出かけた現場の公園で見たのは愛妻ステファニーの射殺死体だった。 捜査陣から外され一人調査を始めるが、逆に嫌疑をかけられてしまう。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 ダイヤモンド警視シリーズ久々の第7作。 まずは警視にとって、さらに読者にとってもシリーズの安らぎになっていた警視の妻が殺されるという設定が、私には残念でした。 本シリーズにとってこの展開が必要だったのでしょうか。 おかげで警視の辛辣なジョークも本作にはほとんどなく、事件解決後も寂しさだけが残ってしまった感じ。 警視自身が窮地に陥ったり、怪しげな連中や事件をいろいろ配するも、どれも中途半端な印象でした。


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