◎02年3月



[あらすじ]

 [表題作]慎(まこと)は小学5年生。母と2人で公団住宅住まい。 次々に他の車を追い抜きながら母は突然「私、結婚するかもしれないから」と言う。 慎のした返事は「すごいね」だった。 [サイドカーに犬]小4の夏休みに母が家出し、やがて洋子さんが家に出入りするようになった。 洋子さんは母が仕切っていた家の中のルールをいともたやすく無造作に破っていく。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 芥川賞受賞の表題作と文學会新人賞受賞の「サイドカーに犬」の2作収録。 両作とも歯切れの良い文体でリズムがあるが、好みとしては「サイドカー」ですね。 ちょっとアウトローがかった"洋子さん"のキャラが実にいい。 表題作は前半はともかく後半やや印象が悪い。 語り手の小学生がやけに人生を達観しているというか、子供らしからぬ醒めた視線がそれまでのある種潔い物語の雰囲気を壊してしまった感じ。 それと短すぎるのも残念。



[あらすじ]

 無職の青年ビルは、二人暮らしだった母親が自宅で亡くなったものの葬式も出さず、異臭を放つ死体と暮らしていた。 やがて金も底をつき、手始めに近くの花火の屋台に強盗に入ることにする。 知り合いのファットボーイとチャップリンに声をかけ、3人で屋台に押し入るがチャップリンが店員を撃ち殺してしまう。 警察の執拗な追跡を受け逃走中に仲間も死ぬ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 作者の傑作
「ボトムズ」「少年時代」を想起させたが、本作は同じマキャモンの「遙か南へ」を思い起こさせる。 人生すべてに投げやりだった男が迷い込んだフリークたちの群。 そこでの人生初めての友情と、逃れようのない欲望から招かれる悲劇。 象徴的なアイスマンの姿。 短いが変化に富んだ内容の濃い物語。 かなりどぎつい描写も多く誰にでも薦められる作品ではないが、読み応えは十分。 でもあと100ページは欲しかったです。



[あらすじ]

 葛原は様々な事情を抱えた客を国外へ高飛びさせる逃がし屋のチーフ。 過去に失敗は一度もない関東一の逃がし屋だ。 しかし彼自身は11年前の殺人事件の主犯容疑で警察に追われる身だった。 ある夜、セキュリティ万全のマンションで2人の男の無断来訪を受ける。 彼らは葛原の素性を承知の上で、密入国している某国高官の捜索を依頼してくる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 夜逃げ屋の国際版といった感じで、関東一のプロが関西一のプロを追うという筋立てが興味をかき立てる。 巻頭まず彼らの仕事をひとつ見せ、脅迫じみた依頼から捜索の第一歩まで抜群のテンポで話は進む。 ところが中盤話が入り組んでくるとテンポにブレーキがかかる。 葛原がやたらに頭が回るのも興醒め。 それでも随所に織り込んだアクション場面で保たせ、終盤は再び切れを取り戻す。 もう少しストレートな追跡劇でも良かったのでは。



[作品紹介]

 これは犯罪もの探偵小説ではない。 漫画家にして古書探偵小説マニアの作者が「小説推理」誌に連載していた古書や本棚に関するエッセイをまとめたもの。 作者がいかにして古本の世界に入り、その底無し沼で嬉々として古本屋や古書市に通い、本棚の整理を日課としているかが延々と綴られる。 作者を古本世界に引き込んだ人たちとの座談会付き。

[採点] ☆☆☆☆★

[寸評]

 これはもう滅茶苦茶面白いが、滅茶苦茶読者を選ぶ本。 しかしこのページを見ている本好き人間なら確実に"はまる"! 最初の乱歩邸訪問で作者の大興奮にも煽られ、一気に古書の世界に引きずり込まれてしまう。 古本道を一気呵成に突き進むその姿は、笑わせながらも何か人ごとでないような怖さがある。 豆本造りもすごい。 古書集めの奇人たちとの対談も傑作で、絶対この世界に入りたくないと思いながら魅せられるように読んでしまう自分がいる。



[作品紹介]

 作家の有栖川有栖は都内のホテルで缶詰になって小説を執筆していた。 深夜のテレビで、大阪で連続通り魔事件が起きていることを知る。 3人の女性が背中から刃物で刺され死亡。 被害者の口の中には丸めた紙切れ。 今回の犠牲者の紙には"ナイト・プローラー"と書かれていた。 大阪では有栖川の知人で犯罪社会学者の火村が警察に協力していた。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 表題作ほかすべて「○○○殺人事件」という題の全6編の本格推理作品集。 いずれも比較的正統な推理短編で、反則のようなひねりもなく納得できる推理で、派手さはないがそれなりに楽しめる。 中では密室トリックが懐かしい「壺中庵殺人事件」が気に入りました。 各編ともほのかに幻想的な雰囲気を漂わせており、本全体がほの暗いムードで統一されている。 また火村と有栖川の探偵陣が出しゃばりすぎないのも良い。


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