AUGUST

◎13年8月


来春までの表紙画像

[あらすじ]

 江戸の西北、雑司ヶ谷の御鳥見役組屋敷にある矢島家。 嫡男の久太郎は父の後を継ぎ、今や気鋭の御鳥見役。 一方、次男の久之助は結婚を機に、妻の伯父の従弟にあたる大御番組与力の永坂家の養子となった。 妻の綾は昨年、流産していた。 矢島家当主の妻、珠世は墓参りの際、和尚から、綾が何か気がかりがあるのか、ふた月ほど頻繁に訪れ長々と墓に手を合わせていることを伝えられる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 10年以上続いている
「お鳥見女房」シリーズも単行本化は7冊目になった。 長寿シリーズらしく、相変わらず安定しており、穏やかで人情味豊かな話もあれば、派手な斬殺事件、跡取りを巡るお家騒動など、今回も様々な趣向が用意されている。 30数ページの中で結末まですべてが語られるので、気楽に楽しめる本ではあるが、あっさりと片が付いてしまったり、広がりはない。 新たな展開につながるものが見られず、手詰まり感が感じられたのは残念。


巨鯨の海の表紙画像

[あらすじ]

 紀伊半島南端の潮岬から東北約20kmの漁村・太地では16世紀に鯨漁が始まり、17世紀後半からは網取り漁法と挟み込み曳航法により大型鯨も対象に加え活況に沸いた。 貧しい寒村が長寿村になったのだ。 15歳の音松は四番船で鯨に銛を打ち込む刃刺の仁吉の補助役の刺水主を務めている。 山見番所で出漁の合図が出て、音松が船首に立つ四番船はじめ数十の船が一斉に出漁していく。

[採点] ☆☆☆☆★

[寸評]

 鯨漁の話は珍しいが、巨大な鯨と小さな船で群れをなし、命がけで挑む男たちの戦いは異様な迫力を持って迫ってくる。 短編6編から成る一冊だが、単に鯨漁だけを描く話ではない。 物語の主題は、人々の生き様、人生にある。 壮絶なサバイバルが描かれる最終話では、阿鼻叫喚の地獄の後に、連綿と続いていく人間の営みが描かれ余韻も深い。 娯楽作としても一級だと思うし、また大胆な装丁もいい。 カバーを外すとさらに迫力ある絵が見れます。


シスターズ・ブラザーズの表紙画像

[あらすじ]

 チャーリーとイーライのシスターズ兄弟は、ボスの提督からカリフォルニアへ出向いてウォームという山師を消すことを命じられ、馬で西部に向かう。 二人は報酬を得て殺しを請け負っている。 時は19世紀半ば、西部は砂金が発見されゴールドラッシュに沸いていた。 野宿をした朝、イーライがブーツを履いたとたん鋭い痛みが。 ブーツの中に巨大な蜘蛛がいたのだ。 膝から下が一気に冷たくなった。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 金で殺人を請け負う極悪非道な殺し屋兄弟を描く西部劇だが、かっとなると何をしでかすか分からないが、普段は素朴で気のいい弟の語りで綴られるので、どこかコミカルでのんびりとした空気が漂っている。 馬に優しく情に脆く女に弱い弟が実にいい味を出しているが、他の登場人物もおかしな連中ばかり。 西部開拓時代の空気、世相が感じられるテンポのいい娯楽作で、悪銭身につかずの典型。 印象的なカバーはアメリカのハードカバー版と同じ。


南部芸能事務所の表紙画像

[あらすじ]

 大学2年の新城は、友人に、バイト先の女の先輩がものまね芸人をやっていると誘われ、ライブを見に来た。 すごいかわいいという言葉に惹かれて来たが、生で見る芸人はただただ面白かった。 自分も芸人になってあの舞台に立ちたいと思った。 一晩かけて出した結論は、相方を見つけること。 ライブ会場のスタッフをしていた同じクラスの溝口に誘いをかける。 すげなく断られるが、新城は粘る。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 小さな芸能事務所に所属する芸人や追っかけの、それぞれの語りで描く7編の連作短編集。
「海の見える街」で人と人の関わり合いを自然に描いた作者だが、本作はそのあたりは浅く、軽い(軽快な)作品。 弱小企業、芸能界はもっと厳しく、ドロドロした世界があるはずだが、そういうところは上っ面のみであっさりしており、爽やかすぎるところは少々残念。 最終話では、えっここで終わるの、と地団駄踏んだが、帯にシリーズ化決定とありました。


離れ折紙の表紙画像

[あらすじ]

 澤井は京都にある洛鷹美術館の非常勤キュレーター。 著名な建築家だった夫の遺品を整理している資産家の未亡人から、蒐集していた骨董の選別と鑑定を依頼される。 オールドノリタケの次に開けた箱から出てきたのは、大きなガラスのレリーフで、もとは一枚だったものが三つに割れている。 絵柄は唐獅子、背景はたなびく雲と岩。 捨ててもかまわないという未亡人から澤井は譲り受けて帰る。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 骨董の鑑定を題材とした美術ミステリーの短編6編。 欲に目が眩んだ者たちのうごめく話が得意な作者ゆえ、面白さはまさに折紙つきか。 登場する骨董は、アールヌーヴォーのガラス工芸、刀剣、浮世絵、絵画など一作ごとに趣向を変え、また蘊蓄も手抜きなし(と思う。骨董はまるで分からんので)。 超高額か二束三文か両極端の世界なので、それなりのスリルもあり、関西弁ののりもあってどの話もテンポ良く進み、気軽に楽しめる作品集。


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