◎11月



[あらすじ]

 泥棒ドートマンダーのもとにヨーロッパの小国ツェルゴヴィアから仕事の依頼が。 ひとつの国が分かれツェルゴヴィアとヴォツコイェクとなり国連の議席を争っている。 議席を得るためヴォツコイェクのニューヨークにある大使館から聖人の骨を奪い取ってくることに。 さっそく仲間を集めまんまと聖骨を盗み出すが、ドートマンダーはヴォツコイェク側に捕らわてしまう。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 以前読んだ
「逃げ出した秘宝」と同じく泥棒ドートマンダーシリーズの第8作にあたる。 前半、舌をかみそうな名前の両国の外交官やニューヨーク大使館の描写が傑作で、快調なテンポで進む。 しかし捕らわれたドートマンダーがようやく脱出、仕返しの大一番となる後半は話が入り組んでいてなかなかついていけない。 ギャグのセンスも日本人とはかなり異なり、持って回った感じで、痛快な終盤を迎える前に読み疲れてしまった。



[あらすじ]

 片岡信也は信用金庫の庶務課長。 27年間無遅刻無欠勤、会社では"文鎮"と呼ばれている真面目一辺倒の男だ。 その信也の妻、鷹子が長女の高校の卒業式の後に家出した。 次女はこれから高校入学。 信也はしかしまるで慌てる様子もない。 鷹子はなんと旅役者一座に加わり、座員の世話や子守から時には舞台にも上がり、家にも時々連絡を入れてくる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 人間、周りに惑わされず自分の好きに生きればいいじゃないかと全編にわたって語られ、何か元気が出てくるような物語。 とんでもなくバラバラでありながら強い家族の絆を感じさせる。 片岡家4人それぞれのエピソードがどれも甲乙つけがたいほど面白く、20年にわたる物語は実に変化に富んでいる。 4人のものの考え方がストレートに伝わってきて痛快。 ただし全体にやや長く、またラストの7ページは不要。 後味が悪くなってしまった。



[あらすじ]

 佐倉涼平は中堅食品メーカー玉川食品の販売促進課で新しいカップ麺のネーミングを練り会議に臨んだ。 しかし佐倉を無視し見当違いの説明に終始する上司と会議中に喧嘩となり、リストラ要員を集めたお客様相談室に左遷される。 そこでは苦情電話が次々かかり客から罵声を浴びせられる毎日だが、家賃を滞納している涼平は会社を辞めるわけにはいかない。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 軽快なテンポで進むライトコメディー。 お客様相談室でのエピソードも半ばお約束のものだが、素直な文体、軽妙な語り口がいい。 多彩な登場人物たちの割り振りも上手く、それぞれのキャラクターも実に分かり易い。 意外性がないと言ってしまえばそれまでだが、安心して楽しめるのは十分評価できる。 それでも終盤の爆発を期待したが、定石通りの展開でさらっと終わったようで、さすがに少々物足りなさを感じました。



[あらすじ]

 ボストンに住む私立探偵パトリックのもとにストーカーに悩まされているカレンという女性が相談に来る。 相棒のブッバと共にその男を痛めつけこの件は簡単に終わったはずだった。 半年後、カーラジオでカレンが投身自殺したことを知る。 自殺のそぶりもなかった彼女にいったい何があったのか。 調査してみるとこの半年間で彼女は次々に悲劇に襲われていた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 
「ミスティック・リバー」を書いた作者の、探偵パトリックとパートナーであるアンジーを主人公に据えたシリーズものの第5作。 前4作を読んでいなくても十分に面白い。 謎、意外な展開、スリルとアクション、全編だれることなく読ませる。 また、単なるアクションものではなく「ミスティック・リバー」同様、人物がしっかり描かれ、主人公らの感情のうねりが感じられる。 救いのない話だがブッパを加えた3人の人間的な関係がそれを和らげている。



[あらすじ]

 新宿で探偵をしている村野ミロは、6年前、愛していた男を刑務所に送った。 ミロはその男、成瀬の出所を待ち続けた。 しかし成瀬に殺された女の母親から、成瀬が4年前に刑務所内で自殺していたことを知る。 成瀬のためだけに生きてきたミロは、自分に知らせなかった父親の善三を糾弾するため北海道へ向かう。 善三は小樽で盲目の女と暮らしていた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 乱歩賞受賞「顔に降りかかる雨」に端を発する"村野ミロ"サーガの40才を挟んだ数年間の物語。 待ち続けた男がすでに亡いことを知り、40才になったら死のうと思ったミロが、いかにしてその後を生き抜くこととしたか。 意外と分かり易い結末だが、激しさの中に人間とはやはりこういうものだという何かほっとさせられる部分もある。 日本と韓国を往復する全編急展開の連続で、脈絡に欠けるがとにかく面白い。 厚さに気後れせず読んで欲しい。


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