◎14年7月


約束の道の表紙画像

[あらすじ]

 12歳のイースターと7歳のルビーの姉妹は母親が亡くなり施設に引き取られた。 父親は元プロ野球選手のウェイドだが、3年前に離婚した際、親権を放棄している。 その父が突然あらわれ、二人と一緒に過ごしたいというが、彼には娘たちと会う権利はない。 姉妹にはアラスカにいる母親の両親に引き取られる話が進んでいるが、姉妹の心は乱れる。 そしてある晩、施設の部屋の窓の外に父がやってくる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 お気に入りジャンルのロードノベルだが、本作も、父と娘姉妹があてのない旅を続ける中で、親子の絆・情愛を取り戻していく様子がさりげないタッチで描かれた佳作でした。 父親はある理由で旅を続けなければならず、その彼らを、過去のいきさつからウェイドに激しい復讐心を抱いている男と、姉妹の後見人の元刑事による追跡劇が加わって、緊迫度が増している。 終盤・幕切れはお約束どおりという感じだが、この物語には相応しく安心しました。


帰らずの海の表紙画像

[あらすじ]

 田原警部補は北海道警本部から函館西署に異動となった。 もともと函館に住んでいたが、20年前に出てから一度も戻っていなかった。 正式な辞令の前日、署の刑事課長から殺人事件の現場に向かうよう依頼される。 現場の海岸で死体となっていたのは函館中央署の水野警部の妹・恵美だった。 田原は両親が事故で死んだ後、水野家に引き取られ、水野兄妹と生活を共にしていたのだった。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 久しぶりの馳星周です。 田原警部補が大きな秘密を抱えていることは早々に示されるのに、その内容は延々と引っ張られ、結局想定内だったというのはちょっと寂しいですね。 作者らしいダークサイドの物語は、話の展開も早く、かなりの迫力があり十分楽しめる作品ではありますが、でも物足りない。 自分が生き残るためには、どんなに情を通じ合った者でもあっさりと切り捨て裏切っていく姿が象徴的な馳星周の物語に、純愛は似合わないな。


最終陳述の表紙画像

[あらすじ]

 福岡地方裁判所では前田検事の論告求刑が行われていた。 詐欺行為にあって投資した資金を失った石野被告が投資金の返還を交渉中に激高し、投資会社の社長と秘書を殺害、事務所内の現金を強奪した事件。 被告は殺害を認めており、検事は死刑を求刑、続いて弁護人は無期懲役または有期刑を求めた。 その時、傍聴席にいた投資会社の社員を名乗る男が、真犯人は自分だと叫ぶ。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 裁判の臨場感、裁判官による裁判全体のコントロール、検事や弁護士の対応、素人裁判員たちの様子など、さすが現役弁護士の書く小説、バックは本物と感心する。 すべては人間が行うことなので、法のあるべき姿を外れそれぞれの思惑が絡み合う様子はスリリングでもある。 これら背景のリアルさに比べて、登場人物のキャラが立っていないので、人間ドラマとしての魅力に欠けた感じで、物語にのめり込んで楽しむところまでいきませんでした。


闇の中の男の表紙画像

[あらすじ]

 40年間、書評やコラムを書き続けてきたオーガスト・ブリルは、妻と死に別れ、一人娘で今年47歳のミリアム、ミリアムの一人娘で23歳のカーチャと暮らしている。 ブリルは物語を綴る。 主人公はオーエン・ブリックという名の30前の男。 眠っているオーエンを深さ3メートルの穴の中に入れる。 目覚めた男はどうして自分がこの状況にあるのか見当もつかない。 やがて近くで大砲の発射音が響く。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 主人公の孫娘の恋人はイラクへ仕事に行き、誘拐され殺される。 一方、主人公が綴る作中作では、9.11もイラクとの戦いもない。 代わりに、アメリカ合衆国は連邦側と独立合衆国側に分かれ、内戦が起きている。 この作中作が抜群に面白く、本書はオースターによるエンタメ小説かと思ったくらいだが、戦争という不条理の中、作中作は中盤で唐突とも言える終わりを迎え、現実の厳しい世界と切り離せない主人公一家が描かれていく。 秀作です。


ミチルさん、今日も上機嫌の表紙画像

[あらすじ]

 45歳、バツイチのミチルは離婚時にもらったマンションに住み、今は無職。 3か月前に鈴木徹と別れてから、中2の冬以来初めて付き合う男が途切れた。 少しは働こうと思いスーパーの面接に行くが、経験がないということで断られる。 次に応募したのはチラシ配りで、こちらはあっけなく採用される。 その翌日、先輩の60過ぎくらいの渡辺佳代子から、まずはチラシ配りの基本姿勢から指導を受ける。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 バブル期に20代を過ごし、努力ひとつしてはこず、いまだそれを引きずっている美魔女のミチル。 彼女が45歳にして、様々な現実に直面し、自らの立場を直視することとなり、なにかを失いながらも、なにかが体から抜け落ち、新たな目標に向かう姿を描くライトコメディータッチの物語。 男女の心の行き違いも良く描けているし、彼女が携わる一風変わったお仕事の場面もしっかりしている。 作者は
「母親ウエスタン」も面白かったが、今後も注目したい。


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