◎06年4月


ながい眠りの表紙画像

[あらすじ]

 コネティカット州ストックフォードで不動産会社が盗難にあったが、盗られたのは賃貸契約書だけだった。 警察署のフェローズ署長が短期契約で賃貸中の家に出向くと、誰もおらず鍵がかかっている。 屋内を調べると、切断され胴体だけの女の死体。 借家人のキャンベルは行方不明で、男を特定する手がかりも乏しい。 警察の懸命の捜査も行き詰っていく。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 
「愚か者の祈り」は今ひとつだったが、本作は警察小説として完成度も高く、とても50年近く前の作品とは思えない。 手がかりの乏しい事件をフェローズが推理し、部下たちが捜査し、また空振りに終わり、を繰り返す。 その流れがリアルな捜査というものを感じさせ、それら推理の顛末が変化をもって物語の面白さを持続している。 劇的かつ、ややあっけない犯人特定も、リアルな筋立てから納得できるもの。 人間ドラマとしても良く出来ている。


七姫幻想の表紙画像

[あらすじ]

 大和の国、小高い丘の麓に建つ館に衣通(そとおり)姫は住んでいた。 姫の姉、大后(大王の正妻)は容貌麗しい妹を厭わしく思い、この地を出ないよう言い渡してきたが、大王はやがて姫のもとに通うようになる。 病弱だった大王は姫のもとで健やかになってきたが、大后は、大王が一人の女を偏愛することを妨げるため、妹を河内の国へ移らせることにする。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 たなばたの七姫と和歌を見立てた短編ミステリー7編で、第1編から第7編まで千年ほどの時を隔てて、それぞれが微妙な糸でつながっているという、壮大で巧みな構成の一冊。 内容も各編それぞれ趣を変え、ミステリー色の強いもの、恋物語あり少年の成長物語であったり、また歴史上の有名人をさりげなく配するあたりも憎い演出。 全体をしっかり計算した構成の妙が感じられる作品だが、娯楽性に重きを置く評価ではこのくらいか。


ジウUの表紙画像

[あらすじ]

 東京で発生した連続誘拐事件は捜査本部と警視庁特殊急襲部隊"SAT"の活躍により、人質を無事保護し、もと自衛官ら5人の身柄を確保した。 しかし主犯は"ジウ"と呼ばれる中国人少年であることが判明。 捜査本部は140人体制でジウを追うが、その行方の手がかりも掴めない。 一方、SAT初の女性隊員伊崎基子は、活躍が認められ昇進し、上野署へ転属する。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 4ツ星の面白さだった
「ジウ−警視庁捜査犯特殊係」の続編。 物語は前作からの続きで本作を単独で読むのは難しい。 今回はいよいよジウがその凄さを見せつけてくれる。 おまけにSATの怪物、伊崎基子との対決というとんでもない見世物も用意されている。 ただ前作にあった警察官たちの日常の人間的描写部分は減少し、暴力性のみが異様にヒートアップした感じ。 物語も次の完結編に向け、大げさに広がりすぎなのは残念。


荒ぶる血の表紙画像

[あらすじ]

 1936年、テキサス州ガルヴェストン。 ジミー・ヤングブラッドは、カジノで近隣を牛耳っているマセオ兄弟に雇われた殺し屋"亡霊"の一人。 今夜も、縄張りの店にスロットマシンを置いたよそ者を、コンビのブラッド、LQとともに始末した。 ジミーの父親フィエロは、メキシコ革命の英雄パンチョ・ピジャの腹心の部下で、冷酷無比な"肉食獣"と怖れられた男だった。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 まずはストーリーの面白さに感心。 主人公の生まれ出でてから今に至る、まさに数奇な運命の造形は見事だし、彼が一瞬にして惚れる女性を巡る一方の話も破天荒だ。 2つの展開がお約束どおり結びつき、最後の壮絶アクションへなだれこむ。 時に冷血、時に激情、時に純情な主人公が魅力たっぷりで、ブラッド、LQとの男3人チームが浪花節的な結びつきを感じさせ、ぐっとくる。 血なまぐさい描写が多いが、とにかく理屈抜きで面白い。


あなたに不利な証拠としての表紙画像

[あらすじ]

 キャサリン・ジョーバート巡査は一人の男を射殺した。 ジェフリー・リュイス・ムーアは終夜営業のレストランに盗みに入り、キャサリンが追いかけた。 追い詰められた彼は、銃とナイフを手に向かってきた。 銃を構えたキャサリンに「やってみろよ」とささやく。 胸に2発、彼は死んだ。 完全な正当防衛。 キャサリンは気に病んだりしないが、それでも耳元で彼の声が聞こえる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 わずか4ページほどの超短編から80ページを超えるものまで、女性警官を主人公にした10編。 警察ものといってもスリルとアクションに満ちた娯楽作ではなく、警察官として、女としての心の葛藤が鋭く綴られていく。 被害者そして加害者との人間としての対峙など、執拗な内面描写とともにリアリティある警察活動の場面もあり、不思議な魅力に満ちた作品である。 日本で言えば桐野夏生の諸作のような、人間ドラマとして読み応えあり。


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