◎02年6月



[あらすじ]

 団地で裏ビデオのセールスをしているマイクロハードの青柳。 九段南事務所という彼のオフィスには、ポスティングZの赤塚、和洋フードサービスの紺野など多くの名義があるが、社員は彼一人、裏表様々な商売で世渡りしている。 その彼がふとしたきっかけで知り合った女、四面堂遙も自ら世間師と名乗った。 危ない道は青柳に渡らせ、おいしいところをかっさらう。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 ユーモア溢れるコンゲームもので、楽しんで書いたであろう作者の雰囲気が伝わる5編の短編作品集。 まずはこの世間師という職業(?)が面白く、要は詐欺師、騙し屋なのだけれど、その手口が決して鮮やかなものばかりでないところもいい。 "ジリアン"とあだ名される女世間師のキャラは突出しているが、その他の登場人物たちの描き方もいわば定石通りで手慣れたものだ。 これはと手を打つような話はないが、どれも気楽に楽しめる。



[あらすじ]

 近未来の福井県の港湾都市。 ロシア、中国からマフィアが上陸。 凶悪犯罪が多発し警官の殉職率が急上昇。 これに対し市警察の下級警官の一部が地下組織"P"を作りマフィアに対する報復テロを宣言。 やがて"P"は県警と激しく対立し、構成員のほとんどを逮捕されるも残党が公安部長を暗殺する。 それから8年後、東京で福井県警がらみの殺人事件が起こる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 これは読み手によってかなり評価の分かれる作品ではないだろうか。 物語の面白さという点では、謀略のドラマであり、当然話はかなり錯綜しており、登場人物も多く、筋を追って理解して楽しもうというのはまず無理。 途中で投げ出す人もいるだろう。 しかしこの全編を濃密に覆う張りつめた冷気、欲望と裏切りの緊迫感は特筆に値する。 スリルやサスペンスといった娯楽性を超越した、終始"激しさ"を感じさせる衝撃の物語でもある。



[あらすじ]

 晴子は遠洋漁業でインド洋にいる息子の彰之に手紙を送り続ける。 昭和9年、晴子の父親が東京暮らしに見切りをつけ四人の子を連れて青森の実家に戻ったあたりから、若い漁師との初恋、奉公先の旧家の様子、そこの末息子との結婚、戦争から近況までを綴った長大な手紙。 一方の彰之は東京で大学を出ながら実家の系列水産会社に紹介してもらい漁船員となった。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 阪神淡路大震災以降、人殺しの話は書かないという作者の純粋な文芸小説。 遠洋漁業に出ている長男への母の長い手紙と、その長男の独白が交互に綴られる。 まるで教科書に出てくるような文体が最後まで延々と続く。 最初は退屈に感じるが、徐々に小説世界に引き込まれる。 母の手紙部分は旧仮名遣いで書かれ、若い人には少々読みづらいかもしれないが、歯切れの良い文体は読むほどに味わい深い。 極めて濃密な"日本語"に酔った。



[あらすじ]

 犯罪学者火村と推理小説作家有栖川のコンビはマレーシアの高原のリゾート地キャメロン・ハイランドへの旅に。 そこでは日本の大学に留学中に知り合った衛大龍がホテルを営んでいた。 当地の日本人実業家の家に招かれた2人を待っていたのは、内側からテープで目張りされたトレーラーハウス内で刺し殺されたと思われる死体。 やがて自殺を匂わせる遺書が出てくるが。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 正統派の本格ミステリー。 前半から中盤にかけては海外リゾート観光気分も手伝ってなかなか好調。 意表をつく展開は無いものの、怪しげな人物を上手く配し、定番の密室殺人も登場して、安心してミステリーの世界を楽しめる。 テンポよく物語は進むが、終盤の謎解きはリズムが停滞した感じで、肝心の密室の謎も私にはウ〜ン、疑問という程度でした。 それと題名から当然列車がメインになると思っていたのに、ちょっと残念。



[あらすじ]

 フランク・ディロンは"ペイ・イージー・ストア"に所属し、訪問販売と残金の取り立てをしている。 客は金を払わず雲隠れするような奴らばかりで歩合もろくに稼げない。 取り立ての情報集めに立ち寄った家で見かけた娘。 家主の強欲ばばあの姪だというモナ。 若くて素直ないい女。 ディロンは取り立て金の一部をちょろまかしていたのが上司にばれ、ブタ箱入りに。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 何をやってもうまくいかず、女ができれば性悪ばかりという主人公が、ちょっといい女に目を奪われたのがきっかけで泥沼にはまりこんでいく。 話の区切りごとにさらなる深みが用意され、そのたびにあっと驚かされたり、物語も大変面白い。 その場の思いつきの犯罪、ブラックなユーモアは傑作
「ポップ1280」同様の不条理な世界。 50年近く前の作品だが今読んでも実に新鮮な狂気に満ち、とりわけラストの壊れ方はぶっ飛んでいる。


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