◎01年2月



[あらすじ]

 ジャード・クインはアイルランドのダブリンの麻薬王トナーの後ろにいて、巧妙に犯罪を仕掛けるプランナー。 彼の新たな犯罪計画は、裕福な不動産会社の社長一家を事故に見せかけて皆殺しにし全財産を奪おうというもの。 彼は綿密な調査をし、周到な計画を立て、幾重にも保険をかけてトナーを通して犯罪実行者に指示を出していく。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 残酷非道な犯罪を次々に立案し、自分の手を汚すことなく間接的に実行していくという実に不快な主人公だが、なぜか憎めない悪漢小説。 少々女に弱いところなど
「ポップ1280」を連想させるが、主人公がより計算高くクールなあたりは現代的なところ。 被害者には自業自得なやつもいるが善良な人も多く、じわじわと心理的に死へと追いつめていくあたり素直には楽しめないが、これが作者のデビュー作とは驚き。



[あらすじ]

 私立宝巌高校3年D組は犯罪者の集まりといってもおかしくないクラスだったが、明日は卒業式。 珍しく生徒全員が出席していた。 担任は、自分の意見をほとんど述べたことがない40半ばの近藤亜矢子。 その彼女が始業時に宣言する。 「あなたたちは人質です。」 そして反抗する生徒たちをナイフと拳銃で次々と殺害していく。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 幻冬舎、新潮社、テレビ朝日による第1回ホラー・サスペンス大賞の受賞作。 単なる娯楽フィクションとはいえ、このような過激な作品が文学賞を受賞し出版されるというのは、新世紀が始まったばかりなのに世紀末を感じてしまう。 激しい復讐劇だが、そこに至る不良高校生たちの所業が書き込み不足のため、カタルシスを感じるところまではいかない。 ただ物語は面白くできており、異様なエネルギーには圧倒されます。



[あらすじ]

 N大生の小鳥遊練無(たかなしねりな)は構内の図書館ロビーでおかしな張り紙を見る。 そこには「ぶるぶる人形を追跡する会(一般参加を歓迎)」とあった。 その人形は紙でできていてそれが体を揺すって踊り、最後には自ら燃えてしまうという。 土曜日の夕方、彼はアパートの向かいの部屋の香具山紫子と共に集合場所に向かう。 全8編の短編集。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 どの作品も一筋縄ではいかない筋立てと展開でなかなか面白い。 後半の諸作は叙述トリックだが、良くできているとも思う。 しかし感心はするけれどいまいちこの本の世界に入っていけない。 なにか作者の"乗り"を受け入れられる者だけが楽しんでくれればいいという開き直りも感じられる。 それにしても西澤保彦をはじめパズラーの掟なのか、登場人物の名前がやたらに凝ったものなのはなぜだろう。 読み難いったらないよ。



[あらすじ]

 昭和10年、東京都江東区で高和正弘は生まれた。 高校卒業後はバーやクラブの給仕、バーテン、バンドボーイなどをしながら合間に歌を歌っていた。 日劇ウェスタンカーニバルに衝撃を受け、第2回には出場。 やがて永六輔作詞、中村八大作曲の新曲「黒い花びら」の歌手に抜擢され、水原弘として第1回レコード大賞獲得。 一気に爆発した彼だが早くも目の前には転落の道が。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 このページにアクセスしている人の中には「水原弘」の歌も名も顔も知らない人もいるかもしれない。 私もリアルタイムで見たのは奇跡のカムバックといわれた昭和42年の「君こそ我が命」以後だが、今の芸能人には見られない彼の壮絶な生きざまが鮮やかに描かれている。 それでもややエピソード不足の感があり、作者が盛んに繰り返す"無頼"の姿があと一歩迫ってこなかったのは残念。 この本に「黒い花びら」のCDがついていれば最高でしたね。



[あらすじ]

 東京の出版社に勤めていた広野有子は、内科医の松村との恋に破れ、会社も辞めて上海の大学に留学し、構内にある留学生寮にいた。 眠れない夜のある晩夢うつつの中で、部屋に50年ほど前から行方知れずの父方の祖父の兄、広野質と名乗る男がいるのに気付く。 どう見ても20代後半、どうやら幽霊らしい。 質は有子に、世界の果てに来たと言う。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 前作
「光源」は精彩を欠いていたが、この物語は作者本来の激しさが行間からあふれている。 恋愛ドラマだが、雰囲気が「柔らかな頬」を連想させる作品で、荒涼たる世界に男と女の歓び、哀しみ、感情のぶつけ合いが実に生々しく、引き込まれる。 有子、松村、質の3人の視点で、時代を前後させながら、かつ繋がりを保ちつつ緊張感をもって話は進む。 終盤は決して平穏ではないが、どこか救いを感じさせてくれるのもいい。


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