◎07年11月


サクリファイスの表紙画像

[あらすじ]

 白石誓が自転車ロードレースと出会ったのは18歳の時。 当時、陸上中距離でインターハイ1位の実力だったが、走ることが苦痛でたまらなかった。 そんなとき、TVで見たレースに魅了され、大学は自転車部、卒業後はプロチームへと進んだ。 チームには石尾豪という日本を代表する選手がいる。 新人の白石はエースの石尾を勝たせるために走るアシストの役割だ。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 珍しい自転車ロードレースを舞台としたミステリ。 といっても全編の4分の3は、レースの駆け引きや人間同士のぶつかり合いといった、いかにものスポーツ小説。 そしてレースで事故が起こり一挙にミステリに突入し、主人公も名探偵に早変わり。 自転車の爽快な魅力が感じられ、謎解きも上手くまとめている。 短い作品のため、主人公が意外にあっけなく勝ってしまったり、同じ新人の伊庭の描き方が中途半端なのが惜しい。


TOKYO YEAR ZEROの表紙画像

[あらすじ]

 昭和20年8月15日、警視庁捜査一課の三波刑事は、品川の海軍軍需工場の女子寮で変死体発見の報を受け、同僚の藤田刑事と現場へ。 しばらく使われていなかった防空壕の中に若い女の全裸死体が。 そして玉音放送を聞く。 1年後、GHQが支配する日本。 芝公園の観音山で女性の全裸死体。 現場に出向いた三波は、近くで白骨化した第2の死体を発見する。

[採点] ☆☆☆☆★

[寸評]

 抑えようもない主人公の内面の意識の言葉が並行して書かれた衝撃的な文体は、強烈な印象を与える。 物語を停滞させることなく、さらに強く訴えかけ、思わず引き込まれて読み進めてしまう。 戦後まもなくの混乱の極みにあった日本と日本人の姿が、外国人作家によりここまで描かれたということが驚異だ。 史実を巧みに織り交ぜた重層的な暗黒ミステリ。 東京三部作の第1弾で、次は帝銀事件が軸となるそうだ。 次作が待ち遠しい。


ビター・ブラッドの表紙画像

[あらすじ]

 佐原夏樹は警視庁S署E分署の新米刑事。 父親も警視庁の刑事だが、夏樹の母と離婚し家を出て親子の交流などはほとんどない。 10月初めのある日、夏樹は街で派手な柄シャツを着た中年男に声をかけられる。 見知らぬ男だったが、向こうは管内の刑事を多く知っている口ぶりだった。 その2日後、マンションから不審な転落事故があり、死んだのはその男だった。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 刑事ものは得意と思っていた作者だが、これは物足りない。 主要キャラに特異な個性を持たせているが、あまり興が乗らない者ばかり。 おまけに捜査で父親とコンビを組まされるなんて、普通ないでしょ。 コミカルに振っているのか、シリアスに振っているのか、全体に中途半端で、新米刑事がベテランたちを差し置いて事件の核心にスイスイ迫っていくのも都合よすぎる感じ。 物語はスイスイ読み進められるが、興奮度は低い。


ハリウッド警察25時の表紙画像

[あらすじ]

 ロサンジェルス市警のハリウッド署。 パトロール中のジェットサムとフロットサムは、本署から連絡を受け、大音量で音楽が流されているアパートへパトカーを回す。 ドアをノックするが返事はなく、寝室にあるステレオの電源を切った。 そしてバスルームで若い女の刺殺死体を発見する。 そこに同居人と思われる男が手首を切った姿で現れ、死体のあるバスタブへ飛び込む。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 数ある職業の中でもとりわけエキサイティングな警察官稼業を、これまた数ある管轄区域の中でもとりわけエキサイティングなハリウッドという地区で描く警官群像劇。 ハリウッドの裏側で起きる至極つまらない騒動から大事件まで、さまざまなエピソードをちりばめながら、警官たちの奮闘が人間味豊かにユーモアを交え描かれている。 勤続46年の巡査部長を中心に、連帯感を抱き、誇りを持って職務にあたる姿が胸にぐっとくる作品。


KIZU−傷の表紙画像

[あらすじ]

 シカゴの新聞記者カミルは、故郷のミズーリ州の町、ウィンド・ギャップへの出張取材を命じられる。 昨年、少女が絞殺された未解決事件があり、今また少女が一人行方不明になった。 町には母と継父、異父妹のアマが暮らしている。 私と母は私が子供の頃から良い関係とはいえない。 取材を開始し、昨年の殺人では、少女の歯がすべて抜き取られていたことを知る。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 終盤、真相が明らかになっていくにつれ、ぞっとするような感覚が背筋を這い上がっていく。 衝撃的で重く、たいへん悲惨な物語である。 取材の進展とともに、思春期の少女たちの残酷な世界が女性作家らしく的確に描かれている(ようだ)。 また、人口2千人ほどの閉塞感の強い移民の町という地域特性も事件の背景として重要なポイントだが、このあたりは日本人には分かりにくい。 よくできたスリラーだが2度は読みたくない類の物語。


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