[寸評]
作者お得意のスペインもの。
過去の米軍機墜落騒動と現在のギター製作者探しの2つのパートを交互に手際よく描いていく。
かなり長い話がゆったりとしたテンポで進んでいくが、そのテンポがスペインの片田舎の雰囲気にぴったり合っている。
また、読者を楽しませる術を心得たような作者の円熟した職人芸で十分に物語世界に引き込まれてしまう。
終盤の畳みかけるような展開も良く、2つのパートが交錯する最後の衝撃は実に見事。
[寸評]
作者の作品群の中では精神病棟を舞台とした5年ほど前の「閉鎖病棟」と同種の作品と思われたが、こちらはさらに淡々とした描写でミステリー色も非常に薄い。
数人の患者の独白から始まり、城野看護婦の綴る痴呆病棟の日常が長々と描写され、途中オランダの安楽死の実状が紹介されて「老い」と「死」を考えさせるものになっている。
押しつけでなく静かな感動を誘う作品だが、最後におまけのようにミステリー色を付けたのが逆に違和感となって残ってしまった。
[寸評]
夏の11日間を描くこの刑事ドラマは、非常にリアルでかつ読んで面白い作品に仕上がっている。
話の流れが自然で、多くの登場人物も整理され、それなりに生き生きとしている。
尾行場面なども臨場感に満ち、サスペンスが盛り上がる。
急展開する終盤は迫力があるが、政治や官僚の闇の世界にありがちな展開を打破できなかったのは残念。
また執拗なまでの松浦刑事の執念と正義感が何に根ざしたものか、もうひとつ表現不足と思われた。
[寸評]
ストーリーテラーとして定評のある作者らしく上下巻通じて面白さを持続する。
全編にわたり適度に変化のある展開で飽きさせられることはない。
しかしこの作品はもっとも肝心な部分がSF紛いのあまりに不可思議な設定になっており、作者も扱いきれず逃げてしまった感じがある。
また主人公たちの行動にも穴が多い印象。
それゆえ読後に物足りなさは残るが、ストーリーだけで十分面白く読ませるのはさすが。
[寸評]
ホラー小説大賞を受賞した作者の前作「黒い家」にはもう一つ乗り切れなかった私ですが、これは面白かった。
毛色はガラリと変わり、「パラサイト・イヴ」の領域に踏み込んだ感じで、特に終盤はドロドロにやってくれます。
しかもこの頭がむず痒くなるような恐怖の原因をもっともらしく説明し、さらに恐怖を煽るところが凄い。
同時進行するコンビニ勤めの青年が変貌していく様も恐い。
やや長く、説明過多の部分もありますが、バイオホラーとして十分お薦めできます。
[あらすじ]
1965年、ギタリストの古城邦明はスペインの辺鄙な村パロマレスにやって来た。
素晴らしい音に魅せられギター製作者のディエゴに自分のギターを作ってもらおうとわざわざ日本から来たのだ。
村の学校で代用教員をしているディエゴは気が向いた時にギターを作っており、古城は近くの農家で野良仕事を手伝いながら完成を待つことに。
やがて村の上空で核爆弾を搭載した米軍爆撃機が空中給油に失敗し墜落する。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
看護婦の城野は看護大学を出て総合病院の中の痴呆病棟で働いている。
そこには、7,80才台を中心に完全な痴呆老人から、痴呆は少ないが大幅な介護が必要な高齢者まで40人が入院している。
小学校の校長だった人、アル中で家族から見放された人、呆けてからサーモンしか食べない人等々。
そんな患者たちを人間として介護する城野だったが、彼らに死は確実に迫っている。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
大蔵省のキャリア官僚がホテルから墜落死する。
自殺か他殺か。
警視庁捜査一課の松浦警部補は休暇中を呼び出され、管理官からの特命で捜査に加わることになる。
他殺の確信を得た松浦だったが、突然遺書が見つかり、自殺で一件落着との上司の一方的な指示が出る。
休暇を使って真犯人を追いつめることを決意した松浦に対し露骨な妨害が始まる。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
ハリー・バーネットはロンドンの給油所に勤めながら酒浸りのわびしい毎日を送っていた。
そこに降ってわいたような一本の電話。
彼の息子が病院で昏睡状態にあるという。
自分に子供がいるなど夢にも思わなかった孤独なハリーだが、その男の名前から34年前のひと夏の人妻との情事が甦る。
なぜ息子は回復不能の状態に陥ったか、肉親の絆を感じハリーは粘り強く調べ始める。
[採点] ☆☆☆
[あらすじ]
小説家の高梨は熱帯雨林調査探検隊のルポライターとしてアマゾン最奥部にいた。
彼はそこから恋人でホスピス勤務の女医北島早苗に電子メールで近況を伝えていた。
ある日、フィールドワークに出かけた探検隊5人は道に迷い、野宿を強いられ、ひもじさのあまりウアカリという猿を食べてしまう。
やがて早苗の前に突然帰国した高梨が現れるが、彼の様子は出発前と一変していた。
[採点] ☆☆☆☆
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