[寸評]
「小説推理」誌掲載5編と書き下ろし1編の本格推理短編集。 いずれも何事も起こりそうにもない状況から、唐突に事件、それも殺人が起き、それを林茶父(さぶ)という名の主人公が名探偵よろしく犯人を論理的に名指していく。 なにか謎解きのために事件を無理やり起こしているような印象で、犯人の動機も説明されないものが多い。 見た目が太ったチャップリンのような主人公の面白いキャラが、活かされていないのが残念。
[寸評]
江戸時代、秋月藩にて永年重職を務め、43歳で隠居後も隠然たる力を保持し、藩政を差配した余楽斎(吉田小四郎)の、幼少から59歳で流罪となるまでを描く。 故郷を愛し、自らの信じる道にまっすぐに生きた男の姿が爽やかだ。 派手な剣劇場面も数回織り込み、娯楽性も高い。 波乱に富んだ面白い物語だが、いかんせん短い。 主人公以外にも魅力的な登場人物が多いが、いずれもあっさりとしか描かれていない。
[寸評]
アラスカにユダヤ人自治区があるという設定で、ヒューゴー賞等SFの主要3賞を受賞した作品だが、ジャンルとしてはハードボイルド・ミステリに分類されるのが適当。 ユダヤ人ネタ、キリストネタのジョークめいた台詞回しも多いが、日本人にはもう一つピンとこないところ。 設定、構成、語り口など見事な作品と思うし、ミステリとしてもとりわけ後半テンポよく面白味が増すが、話はかなり広がったようでいて、最後は尻すぼみな感じ。
[寸評]
「制服捜査」の川久保巡査部長ものの長編。 様々な状況から、逃走中や外出中の者たちが、徐々に天候が悪化し、ついには交通途絶となったことから一軒のペンションに吸い寄せられていく。 何組ものエピソードが手際よく整理され、テンポ良く進んでいく物語は大変面白い。 追う側、追われる側とも、荒天を前に焦りだけが募っていくさまが、否応なしにサスペンスを高めていく。 北に住む者でなければ描けない迫真の犯罪ドラマ。
[寸評]
死者と意志を通じ合う不思議な能力を持つ青年を主人公とした、作者らしいスリルとサスペンスの物語。 前半はやや見せ場が少なく、オッドの能力もこれからどう料理されるのか曖昧な感じだったが、後半、事件が本格的に動き出すと面白さが止まらない。 事件解決への過程は、彼の不思議な能力により、で片付けられてしまうところもあるが、ラストの永遠につながる悲しみの展開は、当然予想していながらも胸を打たれました。