[寸評]
江戸初期の日本と周辺国際情勢、長崎の地域事情、切支丹弾圧に揺れる民衆などが的確に描かれ興味深い。
物語の中心は、不肖者として父平蔵から勘当状態されながら、父の死により強引に代官に就任させられた平左衛門のひたすら長崎の人々の平穏な暮らしを守ろうとする奮闘記。
火消しの話や「踏み絵」の始まり等の挿話が抜群に面白く、生き生きとした人物描写が秀逸。
主人公らの人間的魅力に爽やかさを感じさせる。
[寸評]
怪作「イン・ザ・プール」に続く伊良部医師もの短編5編。
さすがに前作のような驚きはないが、相変わらず子供でもここまで脳天気じゃないだろうと思わせるような伊良部+看護婦マユミの無軌道ぶりが面白い。
どれも話の流れがパターン化してきているのは残念だが、中では「義父のヅラ」が爆笑もの。
こっちまで人のズラを後ろから外してみたい気にさせられる。
またヤクザが主人公の「ハリネズミ」も意外性はないが笑いは十分。
[寸評]
奇想コレクションの1冊で全9編の短編集。
まずは表題作の途方もない奇想ぶりに度肝を抜かれる。
わずか20数ページの作品だが、宇宙を創りあげ、当然そこには生物の進化した星が点在し、その宇宙全体を実験場として神のごとく振る舞う狂気の科学者の物語は、驚異と恐怖に満ちた見事なもの。
その他"風"と暮らす少女や翼を持ち鳥のように空を翔る若者のファンタジー、宇宙探検ものなど作者の奇想が存分に堪能できる。
[寸評]
50代となった同窓生たちが、久しぶりの再会による気安さもあり、自らの過去と現在を自分でも思いがけずぶちまけていく姿がリアルに描かれる。
主要登場人物が10人以上おり、読み手も少々混乱するし、アメリカものらしい分かりにくい比喩やユーモアも多々あるが、単なる同窓会のバカ騒ぎに終わらない群像劇として読み応えはある。
絶望を感じながら、誰もがなおこれからの自分を信じ明日に向かおうという姿勢が感じられる佳品。
[寸評]
題材に特に新味はないが、サスペンスの盛り上げ方が実に上手い恐怖小説。
マットが徐々に追いつめられ心身が弱まっていくあたりのじりじりと進む前半もいいが、後半の急展開とホラー味たっぷりの描写も楽しませてくれる。
歴史ある大邸宅という舞台設定も雰囲気を盛り上げ、容赦ない惨劇描写も数は少ないが効果的に配置されている印象。
2年前の発行だが、さほど話題にならなかったのが不思議なホラーの秀作。
[あらすじ]
時は1628年、江戸幕府二代将軍秀忠の御代。
長崎湾を2隻の巨大なジャンク船が出航した。
甲板にはそれぞれ2門ずつのポルトガル製大砲を搭載。
この長崎代官末次平蔵の所有船が目指すのは、台湾本島南西部の港安平(アンピン)。
オランダの台湾長官とここ数年滞っているオランダとの貿易について、力による交渉を平蔵は目論んでいた。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
山下公平は新日本サーカスの空中ブランコチームのリーダー。
7年のキャリアを持つフライヤーだが、メインイベントでキャッチャーの内田の手に触れることなくネットに落下してしまう。
内田のキャッチミス、怒りを隠しきれない。
一週間で5回の落下。
部長や妻に勧められ、神経科を受診することに。
そこの医者は伊良部というやけに愛想のいい太った男だった。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
わたしは、最近大学でさっぱり見かけなくなった天体物理学者のフェッセンデンの屋敷を訪ねる。
奇矯な振る舞いに家政婦も逃げだし、彼はひとり暮らしだった。
実験室に案内された私は、地球の科学者が行った史上最高の実験とやらを見せてもらうことに。
電気装置と接続し床と天井に設置された大きな円盤に挟まれて、そこには彼の創った"宇宙"があった。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
真夏のダートン・ホール大学体育館では、1969年度卒業生の31年目の同窓会が開かれていた。
すでに亡くなった者も、癌に冒されている者も、ベトナム戦争で片足を失った者もいる。
その夜、体育館には、6人の弁護士、12人の教師、14人の専業主婦、19人の事業主、1人の州副知事、1人の牧師等々がいた。
彼ら、彼女らの長い夜は果てしなく続く。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
16才のマットは母ジョーンと継父ビルの豪壮な屋敷で暮らしていた。
近所で一人暮らししていた祖母のエミリーは、アルツハイマーが悪化し、屋敷に引き取ることに。
物忘れがひどく、常に家族を怒鳴り散らす祖母。
ビルはジョーンに施設への入所を勧めるが、彼女は家で面倒をみると言い張る。
祖母に父無し子と罵られたマットは徐々に精神的不安定に陥る。
[採点] ☆☆☆☆
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