◎06年2月


ジウの表紙画像

[あらすじ]

 正月に都内で小学生誘拐事件発生。 犯人は身代金を持たせた母親をあちこちの駅へ引き回し、世田谷の路上で切り取った子供の指を母親に拾わせる。 結局警察を振り切った母親は身代金を犯人に渡し、子供は解放された。 その年の夏、立てこもり事件発生。 警視庁捜査一課特殊班が出動する。 そして女性巡査が料理を犯人のもとに運ぶことになった。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 これは拾い物の面白さ。 犯罪者に人間を見ようとする者と犯罪者をただ狩る対象としか見ない者。 2人の女性警官を軸に、小気味良いテンポで一気に読ませる警察小説。 事件とともに、刑事たちの日常や内部の軋轢、女としての心情から独身寮の賄いのおばちゃんとの交流まで手を抜くところがない娯楽作品。 肝心の"ジウ"がほとんど姿を見せないと思ったら、この3月に特殊急襲部隊をメインとした第2弾が出るそうで、楽しみだ。


凸凹デイズの表紙画像

[あらすじ]

 浦原凪海(なみ)は「凹組」というデザイン事務所に属している。 事務所といっても1Kの小さな所帯に、30過ぎの大滝と黒川という2人のさえない男がいるだけ。 扱う仕事も、エロ本のレイアウト、ラーメン屋の看板といったけちなものばかり。 しかし今回、リニューアルを計画している遊園地のメインロゴとキャラクタデザインのコンペの最終選考に残っているのだ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 "青春お仕事ユーモア小説"といった趣で、仕事をしていく上で、生きていく上で、恋愛していく上で、人との軋轢、落ち込み、勇気などが、軽妙なタッチで綴られていく。 3人で写真を撮ると両側2人の男が背が高いので「凹」に見えるから凹組という、このデザイン事務所にしろ登場人物にしろ、その設定、造形が実にはまっている感じ。 10年を隔てた2つの青春を描く構成も巧み。 深刻にならず、軽すぎもない良い加減の元気物語。


最期の喝采の表紙画像

[あらすじ]

 トビーは昔はハリウッド映画に出演したこともあったが、今は下降気味のイギリスの舞台俳優。 妻のジェニーとは離婚訴訟中で、すでに妻にはロジャーという金持ちの婚約者がいる。 彼女が帽子の店を経営しているブライトンでの舞台も評判は芳しくない。 そんな折、妻から、男に付きまとわれており、それがトビーと関連があるようなので調べてくれと頼まれる。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 
歴史ロマンミステリーで名高い作者には珍しい、一直線のノンストップサスペンス。 物語の流れの面白さで読ませる作者らしく、この話も最後まで大きな停滞もなく楽しませるものの、徐々に明らかになる犯罪そのものに面白味がない。 主人公の描き方も、離婚訴訟中の妻にストーカー紛いの未練たっぷりという感じで、感情移入することができず、わざわざ渦中に入っていくその行動も疑問。 登場人物の誰もが魅力がないのも痛い。


ドリームタイムランドの表紙画像

[あらすじ]

 舞台はオーストラリア。 商店主のコーレスは、従兄弟のローリーからの助けを求める手紙を受けて1000キロのドライブをしてきた。 ローリーはアボリジニの神話世界を体験するテーマパーク「ドリームタイム・ランド」にいる。 その手紙にはテーマパークの所有者らからの借金一覧が添えられていた。 しかしコーレスはパークの手前でローリーの死に出くわしてしまう。

[採点] ☆☆★

[寸評]

 日本で紹介されるのは珍しい豪州作家の本格推理小説。 1959年の発表作だが、異国の先住民の神話に関するテーマパークが舞台という物珍しさもあり、古めかしさは感じられない。 たいへんアクが強いヘイグ警部の捜査が、テーマパークにおけるアルチェラ(世界の創生時)の9つの催しとともに時間を追って描かれていく。 しかしこの催しが非常に観念的な内容で面白味がなく、捜査の進み具合もぶつ切りで盛り上がりに欠けた。


チーム・バチスタの栄光の表紙画像

[あらすじ]

 田口は東城大学医学部神経内科の窓際万年講師にして付属病院の不定愁訴外来、通称"愚痴外来"の担当医師。 その彼が病院長に呼び出され、特別な任務を託される。 アメリカから招聘した桐生医師による心臓手術チームに最近3例の術中死が起きている。 これが手術ミスかどうか、調査を依頼されたのだ。 田口はまずチーム全員の面接から開始する。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 序盤、その語り口にうまく乗れない感じだったが、チームの面接、そして手術立会い場面と面白さはどんどん増していく。 とりわけ手術場面の描写と緊張感は、作者が現役医師ということもあり、さすがホンモノの迫力。 しかし第二部に入り、国の技官が乗り込んできてからは、その暴走キャラによって様相は一変。 「このミステリーがすごい!」大賞の選者たちはこのキャラを絶賛しているが、私には不快な男としか感じられませんでした。


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