◎96年10月



[あらすじ]

 八木薔子はスーパーの万引き犯を捕捉する保安士。 昔の会社で不倫相手だった上司の木島の妻が横浜市磯子区の自宅マンションで殺され、警察に疑われることに。 八木は疑惑を晴らすと共に木島への未練もあり犯人探しに奔走する。 同じ頃、磯子区では連続して殺人事件が起きていた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 乱歩賞受賞作。昨年の
「テロリストのパラソル」は1年たってようやく読んだので、今年は早めにというわけです。 まず保安士というキャラクタが興味深く、登場人物も個性派揃い。 面白い部分は多いのだが、全体としての出来はいまいち。中盤がやや長くてだれる。 終盤もサスペンスあまり盛り上がらず。謎の解明も納得、というところまでいかない。 せっかく特異な職業をもってきたんだから、それを題材に事件を作ってほしかったなぁ。



[あらすじ]

 尾崎孝史は高校3年生。大学受験に失敗し、予備校の試験を受けるため東京の古いホテルに泊まっている。 そこは、戦前に陸軍大将の屋敷のあったところで、大将は二・二六事件の当日自決していた。 孝史はそのホテルで異様に暗い印象の男と出会う。彼は時間旅行者だった。 

[採点] ☆☆☆☆★

[寸評]

 宮部みゆきはこのところ時代ものの短編が多くて遠ざかっていましたが、久しぶりの現代もの新作長編は抜群に面白い。 時間旅行自体は趣向としては目新しいものではないが、そこに大将の変死事件を入れしっかりミステリーし、 また虚無的だった主人公の大人への成長物語でもあり、切ない恋愛もありのてんこ盛り状態。 多彩な要素が見事に並べられ、終盤はおまけにジーンと感動までさせられてしまい、もう参りました。



[あらすじ]

 主人公はドイツの法律事務所に雇われ遺産相続人探しをしている日本人。 彼はルーマニア革命の際、破壊活動専門の外人部隊の一員として暗躍していた。 革命から5年後、ドイツで600万マルクの遺産を遺した老婆の相続人を捜しに再びルーマニアに入国する。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 船戸与一の作品なので面白くないわけがないのだが、面白さも中くらいか。 民族問題に揺れる国を舞台としていても、あの
「砂のクロニクル」には遠く及ばない。 傍観者たる日本人が主人公ではどうも緊張感が無いし、彼の得意な人間ドラマとしての深みが感じられない。 終盤のやけにバタバタした展開の早さもちょっと頭をひねってしまいました。



[あらすじ]

 ロサンジェルス市警察本部のクライン警部補は弁護士でもあり、法の網をかいくぐり殺人まで犯す悪徳警官だ。 彼はヤクの元締めの家で起きた奇妙な盗難事件を担当する。 一方、サイドビジネスで、大富豪ハワード・ヒューズの依頼を受け女優のグレンダを監視するうち、彼女といい仲になってしまう。 

[採点] ☆☆★

[寸評]

 この作品、年末のミステリー関係のベストテンで上位ランクイン間違いなしと評判だそうです。 単語や記号の羅列で状況、感情などを表す表現法は斬新だとは思いましたが、面白さという観点から見て私にはこの本はまるで評価できない。 簡潔な文体や単語の羅列も複雑な筋立てをさらに分かりにくくするだけ。 悪徳警官ものという好みの素材も、まともにストーリーについていくことも難しい感じでした。 


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