◎99年12月



[あらすじ]

 立派なお屋敷に奉公に出ていた姪の早苗が奉公先の御曹司と悪い仲間に輪姦される。 家に戻り妊娠していることが分かって自殺を図った早苗だったが、その後立ち直り先週女の子を出産した。 ろくに詫びも入れない先方に対し納得のいかない私は友人から探偵を紹介される。 その探偵、榎木津礼二郎は常識を超越したとんでもない男だった。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 "鳴釜"、"瓶長"、"山颪"という中編3作で、他人の頭の中を覗くという特技を持つ榎木津と無理矢理彼の下僕に位置づけられた男達の破天荒な活躍、というかドタバタが繰り広げられる。 1作目は御曹司の結婚式の騒動は面白いがそこまでが少々ダレた。 2作目は骨董のうんちくなどが長くて読むのに疲れた。 しかし3作目が大傑作、というか大爆笑もの。 最後の見せ場など通勤列車の中で思わず吹き出してしまいました。 いつのまにか下僕に成り下がっていく語り手の主人公も可笑しい。



[あらすじ]

 笠原雄二は人気お笑いコンビの1人だったが、身に覚えのないレイプ事件で母親が自殺し、5年前芸能界を引退した。 ある夜、行きつけの飲み屋に元相方で今も活躍している立川が待っていた。 酔い潰れた彼は癌であることを打ち明け、謝罪の言葉と共に失踪してしまう。 その後笠原は警察の訪問を受け、5年前のスキャンダルを仕掛けた雑誌記者が殺されたことを知る。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 江戸川乱歩賞受賞作。 昨年度の受賞作(
「Twelve Y.O.」「果つる底なき」)にはガックリさせられたので期待はしていなかったのですが、これが意外と楽しめました。 オーソドックスなミステリーで、文章も癖が無く展開も淀みなく安心して読めます。 逆に目新しさが微塵もないところが物足りない作品で、犯人の動機付けも弱いような。 主人公には芸風のとおり毒のあるところも少しは見せて欲しかったです。



[あらすじ]

 ニューヨーク市警のジョン・コーリー刑事は勤務中に撃たれ、田舎町にある伯父のサマーハウスで療養中。 友人で地区の警察署長マックスの頼みで殺人事件捜査の手助けをすることに。 殺されたのは沖のプラムアイランドにある政府の秘密生物研究所の科学者夫妻。 自宅で射殺されており、真っ先に懸念されたのが怖ろしい生物兵器との関連だった。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 デミルの
「スペンサーヴィル」以来久々の新作。 コーリー刑事の連発するジョークが傑作で大いに笑わせてくれる。 特に前半のプラムアイランドに捜査の一環として出向くあたりは、ページ数が多すぎてなかなか話が進まないが、彼のジョークだけでとにかく持っている感じ。 事件の真相は意外に平凡で、当然もうひとひねりあると思っていたのに残念。 600ページをともかくも飽きさせない娯楽性はさすがだがやっぱり長すぎました。



[あらすじ]

 小山田万智子は独身で40才も間近のフリーライター。 オレンジハウスという出版社から作家夏木柚香の5回忌に合わせて特集記事の執筆を依頼される。 夏木柚香は33才でデビューした美貌の作家で、バブル期の9年足らずに120冊もの本を出し42才で癌で亡くなった。 娘、数多くの男友達、夫などの話から知られざる彼女の異なる姿が次々に浮かび上がる。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 一般に知られた本人像が、取材を進めるに従い違った姿が徐々に現れ始めるというこの物語のスタイルは特に目新しいものではない。 華麗で奔放な美貌の作家という「第1の神話」から第2、第3の神話が明らかとなるあたりは意外性も少なく、第4の神話が小山田の手を介して形作られるところがひねってあると言えば言える。 もっと柚香の真実の姿が残酷に暴かれれば作者らしいと思うのだが、意外に平板な物語となってしまった。



[あらすじ]

 ワシントン駐留の米海兵隊伍長ダニーは情報部から部下の監視を命ぜられる。 その部下は反戦活動家と繋がりがあり、ダニーはその活動家の人間性にひかれ最後にその命令を拒否。 兵長に降格されベトナム行きとなったダニーは伝説的な狙撃手のボブ・リー・スワガーの監的手を勤め、2人は超人的な活躍をする。 やがて北ベトナム軍にロシア人スパイナーが派遣される。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 超人的スパイナーを主人公とした
"スワガー"シリーズの最終作。 「極大射程」も滅法面白かったが、こちらも負けてはいない。 前半のスワガーとダニーが2人で北ベトナム軍の一個大隊と戦う場面と、後半のスワガーとロシア人スパイナーの一騎打ちという特大の見せ場を二つ持ち、まさに一粒で2度美味しい本。 そしてこの大長編大河シリーズのラストは、そこまでやるかというくらいひねった意外な真相で、劇画的なラストアクションがまた凄い。


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▲ "ボブ・リー・スワガー"シリーズ
 日本での翻訳は順序が狂ったが、本来は第1作が「極大射程」、続いて「ダーティホワイトボーイズ」、「ブラックライト」そして本作「狩りのとき」で終幕を迎える。 伝説的な狙撃手を主人公に据えた冒険活劇小説でいずれもとびきりの面白さ。 「狩りのとき」を読む際は少なくとも第1作の「極大射程」は先に読んでおきたい。