◎23年1月


光のとこにいてねの表紙画像

[導入部]

 結珠は小学二年生。 GWを過ぎた水曜日の放課後、ママが突然「一緒に来なさい」と私を車に乗せた。 向かった先は団地で、「504」というドアのブザーをママは押した。 すると知らない男の人が顔を覗かせ、ママはここでやることがあるから一階の階段で待っているように言われる。 膝を抱え座り込んでいると、向かいの棟のベランダに私と年の変わらない女の子が見えた。 女の子と目が合ったとき両手を目一杯伸ばした。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 三章仕立て、結珠と果遠という二人の女性の7歳、15歳、29歳の物語。 女性同士のラブストーリーと言ってしまえば身も蓋もない気もするが、とても美しい印象を受けた。 特に第二章、結珠の在籍するミッション系学校の高等部に果遠が入学してくるあたりは読んでいて胸がときめく。 美しく一途な愛の物語だが、二人が年齢を重ねるごとに複雑さ、辛さも出てくるし、とりわけ終盤の果遠の選択にはなぜ、という疑問が離れない展開だったのは残念。 直木賞候補。


ぼくらに嘘がひとつだけの表紙画像

[導入部]

 父子家庭に育った朝比奈睦美は学童保育で将棋と出会い、女流棋士になりたいとずっと願ってきた。 看護師になるため進んだ大学では四年間を学生将棋だけに費やした。 看護師として働き始めたが確固たる夢に向け、将棋連盟運営の育成機関「研修会」に入会。 入会から二年半後、二十五歳の初秋にB2クラスに昇級し、正式にプロの女流棋士となった。 そして四年、二十九歳、女流1級。 自他共に認める下層の女流棋士だ。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 エリート棋士を父に持つ少年と落ちこぼれ女流棋士の息子の二人の物語。 赤ん坊の出生時の取り違えがあったかというミステリー味を加え、プロ棋士を目指す彼ら勝負師たちの姿が描かれる。 ミステリーとしては、序盤にそこまで書いておきながら途中の展開でちょっとイラつき、二転三転したものの結局モヤモヤした感じに終わってしまった。 いっそ将棋界のドラマに絞った作品にしたなら、そのシステムや棋士たちの闘いがとても興味深く、全編楽しめたと思うが。


真珠湾の冬の表紙画像

[導入部]

 1941年11月26日、ホノルル警察のマグレディ刑事はオアフ島北部の酪農家からの通報を受け、カアアワ谷にある納屋に向かった。 そこでは若い男が全裸で梁から逆さに吊るされ、ほとんどまっぷたつに切り裂かれて内蔵の大半が床に飛び散っていた。 酪農家の家から上司の警部に報告し、再び現場の納屋に戻ると、つなぎの作業服を着てガソリン容器を持った男が銃を発砲してきた。 マグレディは応戦し、男を射殺する。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 殺人事件を捜査するアメリカ人刑事が犯人を追い訪れた香港で太平洋戦争の勃発に遭遇、捕らえられ日本へ移送される。 戦乱の時代に主人公が辿る数奇な運命と執念の捜査が描かれる。 次々に移り変わる展開に、全編緊迫感に富んだ、たいへんドラマチックなスケールの大きいミステリー。 また時代に翻弄され傷つく男と女のロマン溢れるドラマでもある。 当時の時代背景、香港や日本の様子もしっかり描かれている。 エドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ賞)受賞作。


台北野球倶楽部の殺人の表紙画像

[導入部]

 台北駅の向かいにある鉄道大飯店の裏手に『グランドスラム』という喫茶店があり、そこに三年前に野球愛好家のための倶楽部『球見会』が設立された。 会員は毎週ここに集まり、各試合の内容について意見を交わし合う。 昭和十三年十月三十一日は東京六大学秋季リーグ最終日で、早慶戦に注目が集まっていた。 会員は七人。 慶応出身の藤島慶三郎と会員のうち唯一の本島人の陳金水は欠席だった。 二人の仲は良くなかった。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 中国語で書かれた本格ミステリー長編に係る第六回の金車・島田荘司推理小説賞の受賞作。 日本統治時代の台湾を舞台とした、内容はたいへんオーソドックスな推理小説だ。 鉄道を使ったトリックは巧みで面白いが、破られてもそれほどの驚きはなかった。 物語の背景にある台湾漢民族と移住してきた日本本土出身者の関係・確執が興味深く、日本人として記憶されるべきものと感じた。 物語中、思いのほか“野球”のことが本筋と関係なかったのがちょっと残念。


豪球復活の表紙画像

[導入部]

 ハワイのワイキキ海岸近くに大柄で筋肉質の身体のホームレスの日本人がいた。 その男はプロ球団・東京ティーレックスの豪腕投手・矢神大だった。 彼は入団7年目のシーズンに肘を故障。 手術を受けたが肘の激痛が消えず、アメリカはLAのスポーツ医学専門医のリハビリ施設に入ったが、そこから忽然と姿を消していた。 半年後、球団のブルペンキャッチャーの沢本がハワイで矢神を見つける。 矢神は記憶を失っていた。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 記憶を失くした豪腕投手の復活はなるか、というミステリードラマ。 野球ものとして全体としては面白く仕立てられ、ワクワクする話だが、読んでいていろいろな疑問や物語の流れにもどかしさが出てきてちょっとイライラ。 それらは最終盤に真相が明かされ大体は解消されるのだが、驚きよりもそれはないんじゃないかという気持ちになってしまった。 またラストは爽やかにまとめたが、私の期待したものではなかった。 状況説明が繰り返されるのも気になった。


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