◎98年9月



[あらすじ]

 平安京の世、弥生は右大臣藤原重盛の娘温子の侍女をしていた。 弥生が7歳の時に亡くなった母は宮中で中宮に仕えていたが、やがて帝の寵愛を得て子を宿したものの突然内裏から消えひなびた里で焼死したという。 女官勤めをしながら弥生は母の死の真相を探ろうとする。 そのころ温子が妃となる予定の帝の子有明宮と契った女人に物怪が取り憑くという噂が京に流れていた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 平安京の宮中を舞台にした本格的な時代ミステリー。 和歌をうまく物語中に配し、宮廷の様子や高貴な男女の色模様から物怪騒動などのオカルト風味も交えて娯楽性もたっぷり。 複雑な人物関係もなんとか整理されている。 主人公弥生の気持ちの良いキャラクタもいいが、弥生と共に謎を追う準主役の2人、白楽天の漢詩を自在に操り蘊蓄を傾ける楽天爺さんと血気盛んな若者音羽丸のコンビが絶妙。



[あらすじ]

 花宮雅子の通う高校では謎めいたゲームが伝統的に続いていた。 ゲームの主人公は「サヨコ」と呼ばれ、毎年卒業式当日に先代のサヨコが、新しいサヨコに秘密裏にメッセージを渡す。 普段の年は自分がサヨコであることを他人に悟られなければ終わり。 しかし3年毎にサヨコは学園祭で自作劇を上演し、成功すれば学校全体の進学率が良くなるというジンクスがあった。 3年生の初登校日、雅子のクラスに沙世子という美少女が転校してくる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 帯には「ホラー・ミステリの最高傑作」との謳い文句があったが、ホラー色は比較的薄く、魅力的な謎が用意されていてミステリーには違いないが、学園青春ものの色が濃い。 高校の仲良しグループを中心とした1年間の物語は、不思議な話だが、でもとても自然で爽やかな雰囲気を漂わせている。 陰惨な暴力シーンなどなく、ド派手な演出とも無縁だが十分面白く、何かほっとさせられ心に残る小品。 私も遙か昔の高校時代を思い出してしまいました。



[あらすじ]

 ヘレン・ウェストはイギリスの公訴局(日本の検察庁にあたる)に籍を置く女性弁護士。 最近は夫による妻への家庭内暴力事件を主に担当している。 一方ヘレンの恋人のベイリー警視は酒場の喧嘩が原因で起きた殺人事件を調べていた。 その頃ヘレンが家の掃除のために雇ったキャスはどうも夫の暴力を受けているらしい。 またキャスは殺された男の妹であることが分かる。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 ハヤカワ・ミステリ発刊45周年記念作品だそうですが、その冠にふさわしい作品とは言えないような。 最後までそれなりの面白さは維持するが、家庭内暴力がテーマなのか殺人事件の捜査がメインなのかどうも中途半端。 この物語では夫から暴力を受けながら離れようとはしない妻の心理、夫婦関係こそがミステリーのはずなのに、そこの描き方が少々期待外れ。 そのため同情されるべき家政婦キャスが最後には悪女に思えてしまいます。



[あらすじ]

 中国、インドに接するヒマラヤの小国、パスキム。 資源もない王国の唯一の産業はパスキム仏教の寺院建築や美術工芸品の類だ。 新聞社事業部の永岡はパスキム仏教美術に魅せられ、美術展の開催に奔走するが、パスキムでクーデターが起きたことから中止となる。 その後出張でインドへ出向いた永岡は、美術品を買い取るため、昔の隊商ルートを歩いて非公式にパスキムに入る。

[採点] ☆☆☆☆★

[寸評]

 
「ゴサインタン−神の座−」と同系統のドラマチックな作品。 あらゆる文明技術・知識を排除し、都会を捨て農村で原始共同生活を強要されるというのはカンボジアあたりの二番煎じかと少々残念だが、 強制的に結婚させられた女と徐々に心を通わせ合っていく様子、そして訪れる別れの場面は涙無くしては読めない。 宗教を否定され、極限状態に追い込まれていく人々の姿、仏に魅せられそして自ら仏を見放し最後には菩薩の化身となっていく主人公の壮絶な姿がしばらく頭を離れません。



[あらすじ]

 自衛隊員の平はヘリコプターパイロット養成課程で事故に遭い、1年間の入院後、自衛官募集の仕事に回されていた。 入隊日に勧誘した若者に逃げられた平は、探しあてた彼の仲間たちに袋叩きにあっているところを東馬と連れの少女に助けられる。 東馬とはパイロット養成課程で知り合い、足かせの多い自衛隊とは独立した行動権限を持つ海兵旅団構想を盛んに吹き込まれたが、旅団廃設と共に姿を消していた。

[採点] ☆☆★

[寸評]

 本年度の江戸川乱歩賞受賞作。 乱歩賞には珍しい戦争冒険アクションで、国内ものとしては描写も派手で迫力がある。 しかし物語はあまり面白くない。 国家規模のたいそう大仰な設定や登場人物たちの振りかざす前時代的な大義が、作者には怒られてしまうだろうが、どうも私には白けてしまう。 少女が1人で海兵隊の精鋭部隊を打ちのめしたり、輸送用ヘリで攻撃ヘリを手玉に取ったりもやりすぎじゃないかな。


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