◎03年7月



[あらすじ]

 今朝もまた郵便受けに写真が入っていた。 もう100日以上続けて。 写真には俺の恋人だった女の死体が写っている。 少しずつ腐敗が進行していく様が映し出されている。 行方不明として処理されているが、殺されているのを知っているのは俺だけ。 その日俺は彼女と動物園に行った。 犯人は必ず探し出す。 しかしそれが不可能なことも俺は知っている。 表題作。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 ヴァラエティに富んだ短編10作。 ミステリー、サイコスリラー、SF、本格推理からジャンル分け不能作品まで存分に楽しめる。 終始冷たさに満ちたものからユーモアに富んだ短編もあり、長さも20ページに満たないものから50ページ以上まで様々。 陰惨な話も多いが、いずれも予想も付かない展開で、驚きを楽しめる作品集になっている。 とりわけ表題作、SFの「陽だまりの詩」、残酷な親子関係を描く「SO-far」などが印象深い。



[あらすじ]

 1874年、ミルバンク監獄を慰問のため貴婦人マーガレット・プライアが訪れた。 彼女は30も間近く、法律家の弟はすでに結婚し、妹も婚約している。 女囚監獄を回っていたプライアは、不思議な女囚と出会う。 その房は深い静寂に満ちていた。 シライナ・ドーズ。 詐欺と暴行で5年の刑。 霊媒だというその二十歳前の娘にプライアは引き寄せられていく。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 じめじめと薄暗いトーンに統一された作品だが、描写の巧みさにより、全編が妖しい雰囲気に満ちた魅力的な物語になっている。 イギリスの貴婦人が監獄の女囚を慰問するという話に、うさんくさい降霊会の場面が時折挿入されるもので、序盤はこれで500ページはしんどいと思ったが、最後まで退屈しなかった。 ドーズに狂気のように魅入られていくプライアの姿が凄惨なまでの迫力。 そして全てが一転する終盤の鮮やかさは実に見事。



[あらすじ]

 西原は藤田鋳工の鋳造部長。 といっても社長以下7名のちっぽけな零細鋳物工場。 従業員の半分はタイ人だ。 彼らの給料は自分たちよりはるかに少なく、3か月目からは経営が苦しいという理由で半額しか払われていない。 それでも彼らは我慢している。 西原は社長から、次の給料日までに彼らが強制送還されるよう入管への密告を迫られていた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 短い物語ながら、家族、夫婦、親子、友人といった様々な人間関係について誰もが振り返ってみたくなるような巧みな空気が心地良い。 どんな境遇、立場でも、毅然とした自己を持つことの大切さを教えてくれる。 ただ、やはり短すぎて、もう100ページは欲しいところ。 人物にしろ物語にしろ、全体に厚みを感じるところまで行かず(逆にこれが作者の持ち味かも知れないが)、いい話がさら〜と流れていったような印象。



[あらすじ]

 紀子は小学4年生。 両親と姉の4人家族。 学校では仲良し6人グループにいたが、中の好恵だけがちょっと皆と違っていた。 好恵は格別美人でも秀才でもない平均的な子だったが、打てば響くようなリアクションの名人で、男子にモテた。 6月、誕生会の誘いを受け、5人はプレゼント持参で好恵の家へ。 しかしいつまでたってもケーキもごちそうも姿を現さない。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 主人公の小学4年から高校卒業までの9年間を1年1編、計9短編で描く。 それぞれの年代で、ひいき教師、友達との遠征、理由なき反抗、初恋、アルバイト体験等々のテーマで語られる。 素直な語り口で嫌みなく読めるが、どの題材も展開も特に目新しいものはない。 時代風俗、ものの捉え方など、作者と同世代の人ならかなりのめり込んで読めるだろう。 それでも、紀子が「永遠」について思い至る最終話は爽やかな感動がある。



[あらすじ]

 ニューヨーク市の公園で8才の少女キャシーが絞殺死体で発見される。 容疑者は、遺体発見場所に近い下水管の中で暮らしていた浮浪者のスモールズ。 彼はキャシーを見かけたことは認めたが、殺害は頑強に否定する。 残された拘置期限は明日の早朝に迫っている。 確たる証拠が掴めないまま、コーエンとピアースの2人の刑事はスモールズを追求する。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 容疑者の拘留期限までの12時間を緊迫感たっぷりに描くが、サスペンスというよりも人間ドラマとして読み応えがある。 登場人物それぞれが背負った深い"業"、心の傷がしっかり描き込まれているのはさすが。 後半に起こる悲劇も心が冷えるような厳しさ。 残念なのは、徐々にかけらを見せながら最後に明らかになる肝心の真相の部分の衝撃がさほどでもなく、また警察側の追求や容疑者側の対応も少々納得がいかないところ。


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