[寸評]
作者は黒人探偵デレク・ストレンジのシリーズを持つが、本作はそのデレクの新米警官時代を中心に描いた物語。
物語はデレクや兄のデニスが子供時代に関わった者たちが、大人になり立場を異にし、再びその人生が交差する構成で、1960年代後半のブラックパワーの高まりを背景としている。
長さの割にエピソードが少なく展開も遅いが、終盤の爆発に向けじっくりと読ませるドラマになっている。
しかしこの邦題はなんとかならんか。
[寸評]
同心の息子が、十返舎一九と称して「東海道中膝栗毛」を書くまでの波乱に富んだ生きざまを活写した小説。
主人公の、欲と煩悩に身をよじり、笑い、泣き、女に、そして物語ることに夢中になり、今の生活から離れ旅への欲求に抗えぬ姿が、実に生き生きと描かれている。
当時の風俗、出版界の様子なども興味深く、二人の妻とのやり取りは情味豊か、そして話の展開が早く、途中の仕掛けには驚かされるなど、見事な面白本だ。
[寸評]
10ページに満たないものから、長くても20ページを超える程度の短編19編からなる。
ちょっとひねったくらいの平均的な作品が多いが、「変身」、「恋人たちの末路」のような衝撃的な結末が用意されているものもあり、楽しめる。
また、同性愛が描かれる作品が目につくのも特徴か。
中では「ビンゴ・ホールの女たち」の、あっけらかんとした明るさと、短編にはもったいないような凝った犯罪のつくり、痛快な結末が気に入った。
[寸評]
来年5月から始まる裁判員制度を先取りした中編3編からなる。
趣向は面白く創作意欲は買うが、長さが中途半端なせいか、裁判員のドラマとしても、法廷劇としても、またミステリとしても物足りない。
最初の裁判など、明らかに事件のかなめの部分が不明瞭のまま裁判に入っているのがどうにも不自然で、どの話も起訴側の甘さばかりが目立ってしまう。
とにかく肝心の"裁判員"の部分が活きていないのが一番残念。
[寸評]
登場するのは、ラジオドラマの作家、ラジオ局の女性アナウンサー、ADの青年、その他ラジオとは直接関係のない数人。
妻に急死された作家がメインぽいが、深刻な話もあくまで淡々と、それぞれの日常の断片や独白が少しずつ描かれ、徐々に、微妙に交差していく。
テレシコワもかもめも本編とはほとんど関わりはないが、登場人物たちの風景を遥か地球の周回軌道から眺めているような、環境小説とでもいうような作品。
[あらすじ]
1959年、黒人のデレク・ストレンジは12歳。
両親と兄の4人でワシントンDCの外れに住んでいる。
デレクには白人の友人が一人いた。
父親同士が同じ職場で働いているビリー。
二人で歩いているとよく非難や奇異の目で見られるが、気にしない。
デレクは将来警官になりたいと思っているが、兄のデニスは気に入らないようだ。
ある日デレクは度胸試しに誘われ万引きをしてしまう。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
重田与七郎は駿府町奉行所同心の息子。
20歳で、かつて町奉行を務めていた小田切土佐守に仕官するため家を出た。
小田切は今は大坂東町奉行で、与七郎はあっさり召し抱えられる。
ある日、同僚に道頓堀の芝居小屋に誘われる。
芝居や浄瑠璃に夢中になり、やがて浄瑠璃の全段を収録した正本にも手を出すようになった。
折しも諸国は凶作で米不足が続いていた。
[採点] ☆☆☆☆★
[あらすじ]
トイレの壁にその落書きは書かれていた。
恋人に暴力を振るわれているが、相談するあてがないので、ここに書いて助けを求めているという。
さっそく、急所を蹴とばせ、と早く別れろという助言が書き込まれる。
それに対し、彼を愛しており、見捨てることはできないと相談者が書き込む。
その後も、カウンセリングの勧めなど、トイレの壁を介した複数人のやり取りが続く。
[採点] ☆☆☆
[あらすじ]
××地方裁判所2009号法廷。
裁判員制度により3人の職業裁判官に加え、6人の一般人裁判員が殺人事件の公判に臨んでいた。
コンサルタント業を営む男に殺意を抱いた被告人が、被害者の事務所に乗り込み、ナイフで切りつけ死に至らしめたという。
返り血を浴びた被告人には目撃者もいた。
しかし被告人は、被害者の死に一切の責任はないと堂々と主張する。
[採点] ☆☆☆
[あらすじ]
ガガーリンが初めて地球の周回軌道を回った2年後の1963年、"かもめ"というコードネームの女性宇宙飛行士テレシコワは地球を48周回って帰還した。
それから40年以上たった日本。
早朝のデパート前のベンチに30歳くらいの大柄な男が横たわっていた。
そこにウォーキング中の女性がためらうことなく近づき、大丈夫なのか尋ねる。
大男は起き上がり、大丈夫だと返す。
[採点] ☆☆☆★
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