◎11年2月


蘇えるスナイパーの表紙画像

[あらすじ]

 かつてヴェトナム反戦運動家として名を馳せた女優ジョーン・フランダースが遠方から狙撃され殺された。 続いて車で通勤途上のジャックとミツィのストロング夫妻が射殺された。 彼らはかつてペンタゴンの爆破まで試みた反戦過激派で今は大学教授だった。 そして風刺コメディアンのグリーンも狙撃死。 FBIが捜査を始めたが、やがてヴェトナム戦争時代の有名な狙撃手ヒッチコックの名前が浮かぶ。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 60歳を超えたボブ・リー・スワガーが老体(?)に鞭打って敵に立ち向かう劇画アクション。 今までのシリーズ諸作同様、スワガーの超人的な活躍が存分に堪能できるが、今回はまさに超人=人間ではないところまでいってしまいました。 本作で弱いのは敵役の描き方。 スワガーと友好ムードの場面も多く、もっととことん悪役に描かれないと、反撃のカタルシスも弱くなります。 ラストは劇画を超えてもうマンガです。


前夜の航跡の表紙画像

[あらすじ]

 芹川達人は帝国海軍の防諜部丁種特務班の中尉。 丁種特務班は正規の軍務でない仕事を受け持つ班で、芹川は以前、新型魚雷開発現場で爆発事故に遭い左手を切断。 義手を仏像彫刻に精進している若者に作ってもらったところ、その義手は不思議な霊感を帯びていた。 今回は自殺した砲術科の将校の屋敷に赴き浄霊を行うというもの。 屋敷に泊まり込み一週間目に幽霊が現れる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 昭和初期、日本帝国海軍にまつわる幻想的怪談短編5編からなる、日本ファンタジーノベル大賞受賞作。 怪談話ではあるが、恐怖やおどろおどろしさはほとんどなく、まさにファンタジーレベル。 第二話の霊猫など可愛さの方が優る。 各話とももう少し恐さとひねりが欲しかったと思うが、上手くまとめられており珍しい題材で楽しめる。 当時の海軍の様子や戦艦の描写がとても詳細に描かれているのが印象的。


漂砂のうたうの表紙画像

[あらすじ]

 明治10年、百軒近い妓楼と二十数軒の引手茶屋から成る根津遊郭。 定九郎は半年前から11人の妓を抱える中見世の美仙楼で立番として働いている。 見世の玄関口に据えられた妓夫台と呼ばれる腰掛けで、客を引いては揚代を掛け合うのだ。 相手の素姓を見極め、厄介者が紛れ込まぬよう門口を守る役目もあるが、美仙楼では定九郎より一つ年上の龍造が門口を仕切っていた。

[採点] ☆☆☆☆★

[寸評]

 徳川幕府が崩壊し、度重なる戦役で混乱の続く中、武士の出自を隠し社会の底辺で暮らす男の、逃避、虚無、絶望と諦念の姿を見事に描いている。 直木賞は候補に何度か挙がって受賞へというパターンが多いが、初候補で受賞も頷ける秀作。 時代背景や民衆、妓楼の様子も手抜きはなく、しっかりした文章で読書の快感に浸れる作品。 微かな希望のラストが胸に沁みる。 なお、作者は女性です(昇=のぼり)。


午前零時のフーガの表紙画像

[あらすじ]

 療養入院していたダルジール警視は、周囲の心配をよそに職場復帰したが、今朝は復帰後初の捜査会議に間に合わせようと急いで車を出した。 その後ろを女性の乗った赤いスポーツカーが追い、さらにその後ろを男女2人組の車が追っていく。 月曜の朝なのにやけに車が少ないと訝ったダルジールは、多くの人が入っていく大聖堂に車を乗り入れた。 大聖堂の中で警視は女に声をかけられる。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 約1日の時間の流れの中で、過去何十年もの間の様々な事件・出来事が収斂していく実に精緻なプロットの物語なのだが、個人的にはそれを楽しむところまでいきませんでした。 なにしろ登場人物が多くて、頭の中で整理できないまま読み進めてしまい、物語の中に入っていけない感じ。 英国流の洒脱な表現が随所にあるのだが、付記された注釈を読んで意味は分かっても、当然ながら面白味は伝わりませんね。


メロディ・フェアの表紙画像

[あらすじ]

 小宮山結乃は大学を出て化粧品会社に就職。 二週間の研修後、配属されたのは地元郊外のショッピングモールの中にある化粧品コーナーの一角だった。 6年次上の凄腕と噂される馬場さんとともにカウンターに立つ。 今日も浜崎さんがやってきた。 還暦を過ぎたところだというが、メイクもせず化粧品を買うわけでもないのになぜかしょっちゅうここに来て、嫁さんが意地悪という話をしていく。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 私が10代の頃観た映画の主題歌だったなんとも懐かしい曲が書名と作中に頻繁に流れます。 ビューティーパートナーと呼ぶんだそうだが、主人公がいろんなことに悩み、壁に当たりながらも前向きに仕事に取り組み、他人と向き合う姿はいいですね。 ただ台詞や登場人物のリアクションなど、ほんの少し首を傾げるような、私とは微妙な感性のずれのようなものを感じました。 あと化粧への思いは男にはよく分からんす。


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