[寸評]
落語界を舞台としたミステリで知られる作者の山岳ミステリ。 作者は大学時代、山岳系同好会に所属し、山にばかり登っていたそうな。 内容はいたって正統派のミステリで、友人の死に疑問を持った主人公が困難や妨害を乗り越え真相に近づいていくもの。 まじめな造りで、結末もそれなりの衝撃が用意されているが、もっと純粋に作者の山への熱い思いを作品に投影させたほうが、より感動的なものになり得たような気がする。
[寸評]
ありきたりの女性向けロマンス小説のような出だしが、一変してノンストップのクライム・ロードノベルになって突き進む。 追いつ追われつ、怒涛のように連続するスリルとアクション、ガンファイト。 裏切り、裏切られ、そしてラストは一瞬あっけにとられるほどの驚き。 映画的、劇画的作品だが、グレースとトビーの心をつないだ逃避行はそれなりの人間味も備えている。 たかだか300ページに満たない点が唯一の不満の秀作。
[寸評]
腐りかけた植物のような家族のもとに舞い降りたひとつの種。 家族は当然のように崩壊の一途をたどり、崩れ落ちた場所から種は芽を出し、しっかりと根付き出す。 高校生から中年まで、モラルの崩壊した男女の話は目新しさもないが、物語の展開に変化があり、それなりに面白く読ませる。 ただ、読み終わって残るものがないというか、どんな話だったのかすぐ忘れてしまうような印象が浅いのがなにか不思議な本でした。
[寸評]
本屋大賞受賞など評判の高い作品だが、以前にやはり評判の良かった「重力ピエロ」にえらく違和感を感じたことから躊躇っていました。 この本でも最初のほうで大人顔負けの知識でため口の中学生が出てきてがっかりしたが、出番は少なくホッとしました。 あとはもう快調そのもの。 彼を信ずる者、一時のノリで助ける者等にも支えられた青柳の逃走劇は三転四転、ハラハラドキドキの連続。 決着のつけ方も見事に決まりました。
[寸評]
物語は単純だ。 暖かさを求め南の地を目指して、父と子がカートにわずかな身の回りの品と食料を積んで、動物も植物もほぼ死に絶えた土地を慎重に歩き続ける様子が綴られていく。 リアルな終末世界の描写には息をのむし、父と子の絆、あくまで希望を失わせまいとする父親の息子にかける言葉が言いようのない悲しみを呼ぶ。 涙を誘うような手連・手管一切なしの非情な物語だが、必ずや読み手の心に残るであろう傑作。