◎01年10月



[あらすじ]

 野島の妻繁美は新婚半年にして首都高速湾岸線の交通事故に巻き込まれ死亡した。 生きる屍となった野島のもとに同じ事故で孫を亡くした美濃部という実業家から、事故原因となった"走り屋"を探し出すことを依頼される。 走り屋は改造車を駆って公道を傍若無人に走りまくるスピード狂だ。 元ラリードライバーの野島はさっそく自分の車を選ぶ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 一昨年読んだ
「闇の楽園」もサービス満点の娯楽作だったが、こちらも全編高速を突っ走っているようなノンストップ面白本。 ところどころに、物語に出てくる車の写真やら映画チラシやらレコードジャケットが挿入され、独特の作りになっている。 突拍子もない話が2転3転し全く先の読めない展開で、登場人物もぶっ飛んだ連中ばかり。 まともだったはずの者もどんどん壊れていく。 終盤のど派手なアクションも国産ものには珍しい迫力。



[あらすじ]

 ショーン、ジミー、デイヴの少年3人はいつも一緒に遊んでいた。 ある日、車泥棒をジミーが持ちかけ、ショーンは反対し喧嘩になったところに警官がくる。 デイヴは車に乗せられるがそれは偽警官だった。 4日後、彼は自力で逃れてくるが、彼の身に何が起こったかは明らかだった。 そして25年後、ジミーの長女が行方不明になり、警察官となったショーンが捜査する。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 このところ4つ星続きだが、この物語も見事だ。 序盤のエピソードから一挙に25年後に飛び、3人が再び関連を持ち、その後それぞれの25年が少しずつ語られながら、事件の捜査を軸に話は進む。 特に感心させられるのは人間の描き方がとてもしっかりしているところだ。 事件の真相を追うミステリーとしても良くできており、終盤の急展開も凄い。 登場人物のすべて、昏い河を行くがごとき人生が描かれるが、ラストには微かな光も見える。



[あらすじ]

 真冬のニューヨーク。 モンティは、高校の頃から麻薬売買に手を染めていたが、ついに逮捕される。 父親の支払った保釈金によりなお町に住んでいたが、ようやく7年の刑が確定。 あと24時間で出頭し連邦刑務所に入ることになっている。 刑務所で自分を待ち受ける運命におびえながら、恋人、親友たちや愛犬と過ごす24時間のドラマ。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 特異で衝撃的な題材の青春小説。 しっかりとしたきめ細かい描写により、主人公の微妙な心の揺らぎ、ニューヨークの冴えた空気がリアルに感じ取れる。 親友たちの心の動きも平行して描かれ、一刻一刻と収監に近づく息詰まるような雰囲気は並のサスペンス物ではとても敵わない。 ただ、刑務所で若い白人男性を待ち受ける運命という点がどうしても強調され気味で、小説として全体の雰囲気を損なっているような感じを受けました。



[あらすじ]

 舞台は群馬県の田舎町、那木良。 危険な工場建設の裏金を運びにきた東京のやくざ2人が金とともに連絡を絶つ。 地元のやくざ室田一家の通報を受け、兄貴分の桜井とその舎弟の滋野が調査のため町へ入る。 田舎やくざをあごで使いながら調べ回るが、同時に失踪した風俗の女ナナと二人の行方はまるでつかめない。 やがてナナから無言電話が。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 今月はじめの
「湾岸リベンジャー」の前作にあたる本。 この物語で作者が完全に壊れているのが分かりましたね。 死んだような那木良の町、典型的な田舎やくざ、リストラで行くあてもない初老の男たちなど、その造形と描き方は実に的確。 前半の笑いの暴走から、後半は完全に終わっちまったような者が続々登場し、果てしないアクションと恐怖の連続を軽々と笑い飛ばす凄いパワーです。 それでいてしっかりした物語の組み立てにも感心。



[あらすじ]

 大学助教授の永広影二は2000年12月31日、羽田から飛行機で郷里へ向かおうとしていた。 空港のトイレでふと既視感を感じる。 フライトを終え飛行機を降りると、やけにターミナルが古びて狭くなったようだ。 財布を取り出すと入れてきたはずの紙幣は1枚もなく、古びた硬貨が少々。 急ぎ実家へ電話をかけると23年前に死んだはずの父の声が。

[採点] ☆☆★

[寸評]

 
作者お得意だったはずのタイムスリップものだが、これはひどく物足りない。 父が殺害される直前へタイムスリップ。 果たして父の死を食い止められるか。 過去を変えられるのか。 わくわくするような序盤も、当時家出中の姉のアパートへ影二が辿り着き、姉の恋人(?)という14才の少女が現れてからガラっとテンポが変わる。 話の様相も変わり動きも少なく、そのまま終盤へ。 以前の作者のようにもっと強引な展開で楽しませてほしかった。


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▲ 西澤保彦

 アメリカのエカード大学創作法専修卒業後、大学助手や高校教諭を経て、95年死体の解体ものばかりの連作短編集「解体諸因」でデビュー。 SF的設定を核とした本格推理ものを連発。 奇抜な発想で読者を幻惑し、強引な謎解きで無理矢理納得させてしまう力業が凄い。 特に95年から97年に講談社ノベルズからの諸作が外れなしの快(怪?)作ばかり。 その後も作品を連発しているが、初期の驚きには少々欠けるようだ。 代表作に「七回死んだ男」、「麦酒の家の冒険」、その他「人格転移の殺人」「瞬間移動死体」など。