◎04年6月



[あらすじ]

 江口真佐彦はちょっぴりでぶで口下手の28才、壁紙メーカーの営業。 4才年上の三田村理佳と付き合っている。 1年前結婚を申し込んだが、特に返事ももらえず、でもそのまま付き合っている。 そんな彼、理佳のマンションに呼び出され、トイレに監禁されてしまう。 営業先の社員、中尾広子に誘われ、ついつき合い出し、結婚を申し込んだのがばれたらしい。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 若干の接点をもつ5人の男女をそれぞれ主人公においた連作短編5編。 軽いのりの読みやすいものばかりだが、中身はけっこう濃い。 とにかく人物造形が見事で、主人公に絡む脇役陣にも手を抜いていない。 見せかけの言葉、鋭い口撃、ぽんぽんと飛び出す台詞も計算されている。 強がり、媚び、傷つき、落ち込みながらも最後には明日に立ち向かおうとする主人公たち。 読む側にも元気が伝わってくるような終わり方がいい。



[あらすじ]

 1930年代、テキサス東部の小さな町。 竜巻を伴う嵐の日、サンセットは夫の治安官ピートから手ひどい殴打を受け、例によってまさに強姦されようとしていた。 サンセットは彼の頭に銃を押し当てて撃ち、夫はあっさり死ぬ。 嵐で家は吹き飛び、義理の両親の家に行った彼女を義母は受け入れる。 やがて新しい治安官を決める場で、義母はサンセットを推す。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 
「ボトムズ」系列のミステリードラマだが、猥雑さ、娯楽性をアップした痛快な犯罪ドラマ。 主人公がガンベルトを腰に下げた女治安官というのも派手で、人種差別と共に女性軽視の当時の男たちの狼狽ぶりが面白い。 サンセットは決してスーパーウーマンではなく、夫の虐待を長々と受け続けてきたし、外見のいい男には簡単に騙されてしまうという描き方で、かなり辛辣。 強引な展開だが、映画紛いの派手なラストまで存分に楽しめる。



[あらすじ]

 鈴木夕樹は静岡大学の数学科の4回生。 今まで女性と付き合ったこともない彼は、たまたま人数合わせに友人に合コンに誘われ、一目惚れしてしまう。 その娘、成岡繭子は二つ年下の歯科衛生士。 気の利いた冗談も言えなかったが、意外にも彼女は気に入ってくれたらしい。 同じグループで海へ行った1週間後、彼は意を決して彼女に電話をかける。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 原書房ミステリー・リーグの1冊。 のはずが、どこまで読み進めてもありふれた青春恋愛もので、とまどうばかり。 物語は"A面"、"B面"の2部構成。 B面はA面の続きのようでいて何かもやもやした感じを漂わせ、最後の2ページでその正体を現す。 さっと読み終わらずに、注意して読むことが必要。 物語の様相も一変し、読み返すと怖さも出てくる。 なかなかの衝撃だが、それまでを意図的に平凡にしているのか少々読み通すのがきつい。



[あらすじ]

 白井和希はフリーターの傍ら、端役ながら劇団「うさぎの眼」に属している。 劇団の主宰者である新條雅哉はマスコミでも有名で、和希にとってはまさに雲の上の存在だ。 稽古の後、和希は劇団のファンだと言う萩村祐里と知り合う。 やがて彼女は和希に不可解な頼み事をしてくる。 次回公演の楽日に劇団の女優圭織の楽屋に誰も出入りしないよう見張ってほしいと。

[採点] ☆☆★

[寸評]

 青春ミステリーとしては一応最後まですらすらと読める。 でも面白くない。 とにかく中途半端が多すぎる印象。 まずは警察の対応があまりに緩くて情けない。 そして凶器の指紋のトリック。 え〜、本当にそんなでいいのと、あまりの真相に脱力。 犯人の意外性の無さも、またその動機の稚拙さも、もう少し何とかならないものか。 タイムスリップまで加えて盛り沢山の設定だが、本来なら胸が詰まるはずのラストも盛り上がりませんでした。



[あらすじ]

 2人の親友を撲殺して終身刑となり服役していたマリー・カーターが約13年ぶりに仮出所した。 麻薬と売春に溺れた日々。 パトリック・コナーに麻薬漬けにされての犯行。 彼女が10代で産んだ娘と息子に再会を拒否されてしまう。 息子は養父母と幸せに暮らしているようだが、娘は母親同様コナーに操られ麻薬漬け寸前だ。 マリーはコナーへの復讐を誓う。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 暴力に満ち、麻薬に溺れる人間がごろごろ出てくる犯罪劇で、幸い今の日本では現実味は薄いが、相当に力の入った作品である。 女たちのめらめらと燃えるような激しい憎悪と情愛に満ちた物語で、逆に男の描き方は誰もが軽く深みはない。 終盤のどんでん返しも途中で割れてしまい、幕切れの甘さもやや長い印象ではあるが、とにかく最後までぐいぐい引っ張っていく力強さがある。 魅力過多の主人公の造形も娯楽作として許す。


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