◎13年7月


ミステリガールの表紙画像

[あらすじ]

 妻のララが書斎に入ってきてぼくに告げた。 自分はこの家を出て行くつもりで、とにかくあなたは仕事を見つけること。 今まで常に何らかの仕事に就いてきたが、まずは小説家だ。 この20年、小説家として稼ぎ出した金額は0ドル。 B級映画の脚本家、電報配達人、塗装工助手、ヘルパー助手、そして古書店主の助手。 その古書店が店をたたむこととなったとき、私立探偵助手求むのEメールが舞い込んできた。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 前作「二流小説家」が大好評だった作者の日本先行発売の第2作。 ちょっと期待しすぎたか、全体としてやや長く、込み入り過ぎの感がある。 また、主人公らを翻弄し右往左往させたあげくに、結局当事者の長い長い独白で一挙に謎を開放して話を進める、という運びを繰り返すというのはどうだろうか。 物語のテンポはいいし、登場人物が実に多彩で、猥雑で暴力的、かつコミカルな場面を連続させる、実にサービス精神旺盛なエンタメ作品ではありますが。


冤罪の表紙画像

[あらすじ]

 江戸川河川敷に駐車中の車の中でひとが死んでいるのを、犬の早朝散歩中の人が発見。 ガムテープで窓に目張り、後部座席に倒れた男の足下には七輪に入った練炭。 変死者は柳田裕司。 駆けつけた亀有中央署の曾根警部補は、覚悟の自殺のように見えながら遺書がなく、携帯がどこにもないのが気になった。 柳田のアパートの隣人は、昨日柳田は女に会いに行くと言って笑っていたという。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 本当に久しぶりの
作者の本ですが、作風はまったく変わっていませんね。 きっちりとまとめられた実に堅実な小説。 次々に判明する練炭自殺とされた男たちと、その陰に見え隠れする目鼻立ちの整った艶やかな女、そして金の流れ。 お約束のような設定のドラマで、驚きはあまりないが、安心して楽しめる。 前半は警察の捜査主体、後半は弁護士の調査主体で綴られ、いよいよ焦点は一連の事件の真相だが、そこはちょっと首をひねりました。


ヨハネスブルグの天使たちの表紙画像

[あらすじ]

 北部と南部の戦い、部族間抗争と、ヨハネスブルグを取り巻く内戦状況は厳しく、空爆も絶えない。 行政も警察も当てにならない中、民間有志の自警団が町を治安を守っている。 3年前10歳の時、スティーブは焼け出され、同じ日に戦災孤児となったシェリルとスラムに住んでいる。 夕立の時間。 幾千の少女型ロボットが降ってきてビルの底に呑まれていく。 日本製のホビーロボットDX9、通称歌姫だ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 直木賞候補。 作者はデビュー作の前作「盤上の夜」でも候補になった。 日本製ロボットDX9を随所に登場させながら、現在と過去、世界各地での飽くなき争いの中での人間たちを描く、5編から成る連作短編集。 その発想、構成、簡潔な文章で綴られる灰色の物語は、今までに読んだことのない世界を見せてくれる。 ロボットの雨などという描写も、読み進むうちに違和感なく頭に入るようになる。 9.11なども絡め、世界に通用するSF作品だと思う。


キアズマの表紙画像

[あらすじ]

 岸田正樹は1年浪人して新光大学に入学した。 モペットという原動機付自転車で通っている。 大学に向かう桜並木をゆっくり下っていたとき肩に強い衝撃を受ける。 追い越していったロードバイクの男が関西弁で怒鳴りつけてきた。 サイクルジャージを着た男がさらに2人。 モペットで逃げようとしたが簡単に追いつかれる。 突然目の前にトラック。 岸田は自転車のほうにモペットごと倒れ込んでしまう。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 
「サクリファイス」に始まった作者の自転車ロードレーサーシリーズ4作目。 今回は大学自転車部を舞台にした青春小説で、爽やかな物語になっている。 レース場面は少ないが、手慣れたもので、スリリングで臨場感もたっぷり。 ただ、いくら重い原付自転車で普段からペダルこいでたからって、素人がそんなに簡単に勝てるの? まあ、お話だからね。 中途半端に話を進めてしまうところがあることと、部のエースの櫻井という人物が嫌いなのでこの採点。


チャイルド・オブ・ゴッドの表紙画像

[あらすじ]

 テネシー州東部の山村。 貧乏白人のレスター・バラードは、ひとりで二間だけの家に住んでいた。 父親は自殺、母親は男と駆け落ち、彼はもともと粗暴で人付き合いも苦手、孤独な日々を送っていた。 ある寒い朝、山道の脇でナイトガウンを着て寝ていた女に罵られ、女のガウンを奪う。 女は保安官のところに行き、バラードは九日間、群の拘置所で過ごして、裁判官にもう出て行っていいと言われる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 まさに鬼畜のような男のおぞましい所行を描いた、非情に暴力的な禍々しい物語であるが、それで読者に衝撃を与えて売りにするような作品ではない。 神を冒とくするようなタイトルとともに、すべて、まるごと読者に提示するのが作者の姿勢だ。 また、カーニバルでの金魚掬いと射的の場面もいいし、時折挿入される山間の情景や季節の描写はとても美しい。 数多の小説群を超えた孤高の完成度を感じさせる、さすがマッカーシーと感嘆しました。


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